堤体の盛り立て面積の最大94%で自動化施工を進める成瀬ダム。現場では自動走行する重機の台数を増やすだけでなく、施工の生産性を高める研究開発も進行する。その中心舞台はA4CSEL(クワッドアクセル)を管理する「管制室」だ。
ギュルギュルギュル──。満載のCSG(現地で得られる石や砂れきとセメント、水を混合した材料)材を荷下ろししたダンプが去ると、待っていましたとばかりに無人のブルドーザーが動き出す。空っぽの操縦席の上には、「自動運転中」を示す青い回転灯が光っている。
ここは鹿島・前田建設工業・竹中土木JVが秋田県東成瀬村で施工中の成瀬ダムの堤体上。鹿島がクワッドアクセルを全面的に導入し、自動化した重機を最大で23台同時に稼働させる。ピーク時には月間30万m3ものCSG材を打設する世界最先端の工事現場だ。
ブルドーザーから数メートル後方に目を向けると、同じく青い回転灯を付けた数台の振動ローラーが真っすぐ走行する。振動ローラーが走行した後の地面は濃い茶褐色から薄い黄土色へと、まるでペンキを塗ったように姿を変えていく。
成瀬ダムの現場で使うCSG材は、最大粒径80mmのれき材と細粒土にセメントを混ぜた材料だ。ブルドーザーがまき出した直後のCSG材に足を踏み入れると、くるぶしまで埋まる。それが、振動ローラーによってあっという間に平らに締め固められていく。圧倒的なスケールに息をのむ。
時折、ブルドーザーや振動ローラーの車間が縮んでヒヤリと感じるものの、堤体上で気にかける人はいない。施工現場全体を統括する鹿島JVの奈須野恭伸所長は「これだけ近くに集まっている重機を人に運転させる方がむしろ不安だ」と話す。
確かにバックで走行する際に、人がうっかり後方確認を怠って衝突事故を起こすといった心配はない。1台1台を人が遠隔で操縦するのでもない。重機同士が自動で一定の距離を保っているのだ。
安全の秘密は、現場を見下ろす高台の上からクワッドアクセルで動く重機を管理する「管制室」にある。