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 国内最大の台形CSGダムの建設現場で稼働する鹿島のクワッドアクセル。自動化施工の挑戦を支えるのは開発した技術や重機だけではなく、安全で効率的な現場運営も大きな役割を担う。現場のルールや工夫を探った。

 「本日も一日安全作業でがんばろう!」秋田県東成瀬村で施工中の成瀬ダム。早朝の堤体を見下ろす高台には100人近い作業員たちが集まって朝礼を開催。安全確認の合言葉を唱和していた。

成瀬ダムの施工現場の朝礼で安全説明をする様子。スリランカ人作業者に通訳がシンハラ語で説明を伝える(写真:日経クロステック)
成瀬ダムの施工現場の朝礼で安全説明をする様子。スリランカ人作業者に通訳がシンハラ語で説明を伝える(写真:日経クロステック)
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 鹿島・前田建設工業・竹中土木JVとその下請けを担う会社の作業員たちだ。冨島建設(大阪市)は堤体に材料のCSG(現地で得られる石や砂れきとセメント、水を混合した材料)を打設する作業のうち、有人の施工範囲や自動化部分を含むエリアの清掃、散水などを手掛ける。白石鉄建工業(愛媛県西条市)は堤体側面の保護コンクリートの打設に携わる。

 作業場所がクワッドアクセルで重機を動かすエリアに隣接しているため、作業時の協調が重要だ。毎日の朝礼では、後方確認の重要性や作業に潜む危険性などを共有。現場のルールを参加者全員で再確認する。

 もし自動化施工のエリアに人が立ち入ると、重機に搭載されたセンサーが検知して停止する仕組みが用意されている。だがそれはあくまで安全上の対策であり、予期しない人の進入は工事全体を止めてしまう。

 そこでクワッドアクセルが稼働している間は作業エリアに決して立ち入らないようルールを徹底。車両を通過させる必要がある場合などは重機の管制室と連絡を取り、自動運転を全て一時停止させる。

 高台から堤体を見下ろすと、作業エリアへの人の立ち入りを防ぐ境界がよく見える。境界に置かれたバリケードを構成するFRP(繊維強化プラスチック)管は通常2本構えだが、1本増やして胸の位置まで高くしている。

クワッドアクセルで重機が稼働する現場の周囲はバリケードで囲われている(写真:鹿島)
クワッドアクセルで重機が稼働する現場の周囲はバリケードで囲われている(写真:鹿島)
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 個々の作業員へは念入りにルールを浸透させる。朝礼の場では、職長の説明に続けて通訳が同じ内容をシンハラ語で復唱する場面があった。冨島建設ではスリランカ人の技能実習生を受け入れており、成瀬ダムにも多くのスリランカ人が重機の運転や打設面の清掃作業などに従事する。

 通訳を担当する冨島建設のガラバダゲ・ロシャーン・ルパシンハ氏は「守るべきルールのポイントを毎朝、皆で丁寧に確認している」と胸を張る。