複数種かつ数多くの重機を自律運転で動かして、大型の土木構造物を構築する。現時点の成瀬ダム(秋田県東成瀬村)の建設現場では、準備中の自動化が残るものの、堤体上の施工の多くを自律運転でこなせる水準にある。これまでの建設現場では、補助的に一部の作業を自動化する例が大半だった。まさに、有人作業と自動作業の主従逆転を実現している。
自律運転という言葉からは、作業を担う重機自体が周囲の状況を判別し、状況に沿った判断をして最適な施工をこなすイメージが思い浮かぶ。だが、A4CSEL(クワッドアクセル)が進める自動化は、もっとシンプルだ。重機の位置に応じて、事前に決められた作業をこなす動作を基本に据えている。
シンプルな組み立てで重機の自律運転を可能にした根源には、これまでオペレーターなどの技能者に依存してきた作業を徹底的に分析・分解し、再現性のある定型化を図った点にある。こうして、重機に求められる個々の動作に必要な時間や空間などを明確化。工場でロボットを扱うように、重機を管理できるようにした。
作業を分析・分解する行為の背景には、鹿島の高田悦久専務が「ゼネコンは存在価値を失いかけている」と語るような危機感がある。生産性を高めるうえで最も重要な作業自体を、下請けの会社に任せてきた結果、 元請け側が合理化を図るべき作業の本質を見失いつつあるというのだ。
施工の機械化に詳しい立命館大学の建山和由教授は、次のように指摘する。「重機の自動化といった『付加価値作業』を効率化する効果は大きい」。無駄を省くような取り組みやすい部分にだけ焦点を当てても、得られる効果は限られる。業務改善を図るうえで、下請けが担う作業への切り込みこそが、建設現場の生産性を飛躍的に高める可能性につながる。
鹿島のクワッドアクセルでは、作業の分析にAI(人工知能)など高度な技術を取り入れた。しかし、机上の分析だけで、実際に作業を改善するのは難しい。作業内容を理解したり、分析結果を検証したりするために、鹿島は社員にも重機を操作させるというリスクを取った。