秋田県内で鹿島が自動化重機による施工を進める成瀬ダム。新しい技術が取り入れられているのは工事だけではない。施工現場を見下ろす高台にある工事の展示スペースではAR(拡張現実)を導入し、完成予定のダムや近づくのが難しい重機などを実物大で体感できるよう工夫を凝らす。土木部門の広報を統括する小野かよこ技術広報担当部長に狙いや情報発信の工夫を聞いた。(聞き手:橋本 剛志)
成瀬ダムの工事現場にある展示スペース「KAJIMA DX LABO」では、ARを活用した展示に力を入れています。
展示物を見て学ぶだけでなく、体感しながら学習できる施設を目指しました。過去には新潟県内で施工中の信濃川大河津分水路の工事の展示スペースなどで映像やタブレットの活用を手掛け、今回成瀬ダムでARの本格導入にチャレンジしました。
例えばダムの模型にタブレットをかざすと、工事の解説と一緒に周辺地域の自然のコンピューターグラフィックス(CG)映像を楽しむことができます。説明の分かりやすさだけでなく、工事現場周辺に出没する熊が映像の中でまれに見られる、といった遊び心を追求しました。来場者には、現地を散策するような体験を持ち帰ってもらいたいです。
堤体を自動で施工するA4CSEL(クワッドアクセル)の魅力もただ仕組みを説明するのではなく、複数の巨大な重機が近接して連係する驚きと迫力を伝えたいと考えました。タブレットを持って展示室内を歩けば、目の前で実物大のブルドーザーがCSG(現地で得られる石や砂れきとセメント、水を混合した材料)をまき出す様子を眺められます。
展望デッキでは、建設中の現場にダムの完成像のCGを重ねて眺められるようにしました。ダムの全景を見るためにはタブレットの向きを変えなければならないほどで、ダムの大きさが実感できると思います。
建設現場に詳しい人でなければ、目の前の地形や工事中の現場がダムのどの部分に当たるのかを理解するのは難しいでしょう。ARを使えば堤体の位置関係がよく分かるので、納得しながら楽しんでもらえるのではないでしょうか。
展示を間もなく、オンラインのコンテンツとして公開します。コロナ禍で成瀬ダムの施工現場に訪れるのが難しい国内外の多くの人に、建設技術やダムの魅力を伝えたいと思います。