世界最先端の自動化施工を実現している鹿島の建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」。この開発を立ち上げ、現在も最前線で技術革新を押し進める鹿島技術研究所の三浦悟プリンシパル・リサーチャーに、同システムの開発に至った経緯と狙いを聞いた。2回に分けて伝える。(聞き手:浅野 祐一)
クワッドアクセルという名称が気になります。スケートの技の名前みたいですね。
フィギュアスケートでまだ誰も成功させていない技が、4回転半ジャンプのクワッドアクセルです。生産性が上がり、省人化が実現でき、しかも安全性も高まる。自動化を突き詰めて、まだ誰もやっていないことを実現しよう。最初に跳んでみせよう。2009年に開発をスタートさせた際に、そんな思いを込めて命名しました。

クワッドアクセルの開発を進める意義は。
建設業の労働生産性は、製造業に大きく見劣りしています。製造業はコスト競争を勝ち抜くための統廃合や人員削減などを図ってきました。こうしてコストを圧縮してきた結果、今から約25年前は労働者1人当たりが生み出す価値は、製造業も建設業もあまり変わらなかったのに、今では2倍近くの差にまで広がっています。生産性が高いといわれる自動車メーカーのトヨタ自動車と比べれば、その差はもっと大きいでしょう。
さらに、建設業で働く人が減っています。約25年前は約700万人に迫るほどの就業人口でしたが、今は500万人ほどに減りました。建設投資額を見ると、2020年前後の投資額は05年ごろと同水準です。この時点の就業者数と比べても、現在は1割強少ない。加えて、高齢化も進展しました。人の問題は、他の産業よりも深刻な状況にあります。
労働災害が多い点も、建設業が就職先として嫌われる理由でしょう。全産業で発生する労災死者数の約3分の1を、建設業が占めています。これらの問題を解決する方策として、工事現場を工場に変えてしまうという方向性があります。これこそが、クワッドアクセルの意義なのです。