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成長の源泉は電気自動車(EV)とソフトウエア―。戦略転換の真っただ中にいるのがドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)だ。欧州を中心とする脱エンジンの方向性に沿うように、次期EVの開発を急ぐ。その起点となるのが、初の専用プラットフォーム(PF)を搭載する量産EV「ID.3」だ。

 「まだ粗削りだが、熱マネジメントシステムを統合化するという意志を強く感じる」。ID.3の分解調査に携わった自動車技術者はこう分析する。別の専門家は、「1つのPFで幅広い電池容量やモーター出力に対応する工夫がみられる。モジュールPFのエンジン車を大量生産してきたノウハウが生きた」と推測する。

 VWは、ID.3を筆頭とする「ID.ファミリー」のEVを2025年には年間150万台量産する計画だ。コストを抑えつつ様々な車種を大量生産するために、同社が用意したのがEV専用PFの「MEB(Modular electric drive matrix)」である。

 資産か足かせか―。蓄積した経験やしがらみのない米Tesla(テスラ)は、ゼロから新しいEVを開発した。だが、エンジン車の歴史を持つ多くの自動車メーカーが過去を無視するのは難しい。それに、活用できる知見まで捨てる必要はない。

 実際、EV専用PF時代の幕が上がるタイミングでVWが設計したID.3には、エンジン車時代の残り香も漂う。低コストのEVを量産する難しさや、ソフトで収益を確保する仕組みの構築など、VWの開発陣が悩み抜いた様子が分解車両から透けて見えた。

次期PF「SSP」の開発に着手

 30年に世界販売の5割をEVにする。VWが21年7月13日に打ち出したグループ戦略だ。陣頭指揮を執るのが、同社社長のHerbert Diess(ヘルベルト・ディース)氏である(図1)。同社は40年には、主要市場で販売する新車のほぼ100%をゼロエミッション(排ガスゼロ)車にする計画である。

図1 EVシフトに賭けるVW社長のHerbert Diess氏
図1 EVシフトに賭けるVW社長のHerbert Diess氏
欧州委員会が2035年までにエンジン車の販売を事実上禁止するとの方針を発表したのに合わせ、Diess氏はEV開発にさらに力を注ぐ考えを示した。(出所:VW)
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 VWがグループ戦略を発表した翌日、欧州委員会は自動車の走行中に関する二酸化炭素(CO2)排出量規制をさらに強化する新しい法案を公表した。35年までに100%削減し、事実上、エンジン車の販売を禁止する。