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分散型から中央集中型へと移行しつつある電気/電子(E/E)アーキテクチャー。その過渡期に登場したのがドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の「ID.3」だ。エンジン車では約70個あったECU(電子制御ユニット)の数を減らしたことが分かった。過去に分解調査した米Tesla(テスラ)の「モデル3」との違いもはっきりしてきた。

 探していたECUは最後まで出てこなかった。自動運転/先進運転支援システム(ADAS)をつかさどる「ICAS2」だ。

 VWはID.3から、新しいE/Eアーキテクチャー「E31.1」を導入した。その中核を担うのが、「ICAS(In-Car Application Server)」と名付けた3つの統合ECUである。ID.3に搭載されていたのは、車両制御コンピューターの「ICAS1」とHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)用の「ICAS3」の2つ。搭載位置は、助手席側のグローブボックスとダッシュボードの間の空間である(図1)。ICAS2は、自動運転用のソフトウエアやセンサーなどを開発できた段階で、搭載を開始することになりそうだ。

図1 統合ECUの搭載位置
図1 統合ECUの搭載位置
ダッシュボードとグローブボックスの間にあるフレームに固定されていた。(撮影:日経Automotive)
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 このように発展の可能性を残すID.3のE/Eアーキテクチャー。車載ネットワークという観点で分析したところ、Teslaとの設計思想の違いがくっきりと見えた。新しいアーキテクチャーに挑むVWの次の一手も分かってきた。カギを握るのが、ID.3から対応を始めたOTA(Over The Air)。ソフトウエアで収益を確保する仕組みの構築を急ぐ。

車載ネットワークを極力排除のTesla

 ID.3では、車種を超えたソフト開発・実行環境「VW.OS」を採用している。オンラインでのソフト更新によって、バグを修正したり、新機能を追加したりできるようにするのが狙いだ。これを実現するために、VWが選択したのがE31.1だった。

 ICAS1~3以外のECUは、センサーから得た情報をICASに送ることと、ICASから受け取った制御信号に従ってアクチュエーターを動かすことを主要なタスクとする。こうすることで、更新の際、この3つの統合ECUを中心にファームウエアを更新すればよくなる。これまでは、判断と制御を各ECUが担う場合が多かった。

 これを実現するための車載ネットワークとして、VWが積極的に採用しようとしているのが、Ethernet(イーサネット)である(図2)。特に、ADAS用のカメラやセンサーからのデータ伝送、LTEや第5世代移動通信システム(5G)への接続、多チャンネルかつ広帯域の音楽再生などを実現するためには、現在のCANでは帯域が不足する。

図2 VWが推進するE/Eアーキテクチャー
図2 VWが推進するE/Eアーキテクチャー
中央のコンピューターで、すべての情報を収集管理し、制御する。データはすべてICAS1と呼ばれるECUでスイッチングされる。図は、VWの図を基に日経クロステックが作成。
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