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 働き方の多様化に伴って働き方に関する用語も次々と生まれています。今回は「スラッシュワーカー」について考えてみましょう。

 スラッシュワーカーという名前を初めて聞いたとき、音楽好きな筆者は「スラッシュメタル」というジャンルのメタル音楽で生計を立てている人を想像してしまったのですが、それは間違い。複数の職業や肩書を持つ人を指す言葉です。SNS(交流サイト)のプロフィル欄に「ライター/デザイナー/エンジニア」のようにスラッシュ(/)で区切ってたくさんの肩書を記載することから、その名が付いたようです。

 過去には筆者も、プレゼンテーションで自己紹介をするときなどに「あれもできます、これもできます」と肩書や得意技をたくさん並べていました。SNSでの発信を始めてからは、プロフィル欄に同様の記載をしていました。客先の訪問前や訪問後に筆者の名前で検索されたときにできるだけ仕事のご縁があるように、また案件獲得に必要な信頼を得られるように、と考えてのことでした。

 例えばこのような記載です。

例1)人事コンサルタントです、でも研修講師もできます
例2)組織開発や階層別研修、採用、育成、OJT、ハラスメント予防もしながらコーチングができます

 これは筆者の例ですが、ITエンジニアやITコンサルタントでも同じようにプロフィルを記載している人は少なくないでしょう。

 このようなスラッシュワーカーは、転職に有利なのでしょうか。フリーランスの場合は、案件獲得につながりやすいのでしょうか。筆者の業界で考えてみます。

 まず「人事コンサルタントです、でも研修講師もできます」という記載は、それぞれの専門性を本当に持っているか、疑問を抱かせる可能性があります。コンサルタントは多くの場合プロジェクト単位でクライアントの課題解決に貢献するものですが、研修講師は半日や1日など比較的短時間のミッションを明確にして、それを達成します。

 いずれも「人前で話す、聞く」という基本動作は共通していますが、クライアントから求められる成果やスキルは明らかな違いがあります。ただし研修講師というよりはコンサルタントと名のったほうが格好が付くと考えて2つを併記する人もいます。しかし実際は研修講師としても中途半端だ、ということも珍しくありません。

 同じような話は保険業界にもあります。単なる保険営業だと差異化が図れない、ましてや保険というと顧客が離れていってしまうという思い込みを持っている営業担当者は一定数います。その中には「ファイナンシャルプランナー」という肩書を使いたがる人もいました。きちんと資格を持って資産運用の的確なアドバイスができるなら問題ないのですが、そういうケースばかりではありません。

発揮する専門性はクライアントごとに異なる

 筆者自身、独立後、仕事に恵まれていなかったころにはたくさんの肩書を付けました。ただし現実には、プロフィル欄に記載した肩書の数と売り上げは全く比例しませんでした。Twitterなどでも情報発信に努めてきましたが、そこから仕事が生まれたことはあまりありませんでした。たくさんの肩書を並べるのをやめた今は、会社員時代を超える売り上げが立っています。

 とはいえ、自分のこれまでの取り組みや努力、過去の成果はなるべく世間にアピールしたいものです。それを仕事につなげるには、どうしたらよいのでしょうか。