「毎週決まった曜日の午後3時、“おやつ会議”が開かれることになった」。ある50代の技術者からこんな話を聞きました。メンバーのコミュニケーション促進や職場活性化を目的に上司が始めたことだそうです。
楽しそうな取り組みにも聞こえますが、本人はそうでもないようです。部のメンバーは全員、40代以上のおじさん。昼間の会議室でこのメンバーと顔を合わせてコーヒーを飲み、お菓子をつまみながら雑談を強いられるのは苦痛だと訴えていました。
その気持ちは筆者も分かります。今の50代は、こうした文化に慣れていない人が多いからです。そうしたメンバーばかりの現場でいきなりとっぴな取り組みを始めても、空回りしてしまいがちです。
ダラダラ残業していたわけではない
50代の技術者がどんな働き方をしてきたか振り返ってみましょう。「技術大国ニッポン」の掛け声の下、激しい競争の中での生き残りをかけて経営陣からハッパを掛けられてきたのが現場の技術者です。技術を磨けとはいうものの、技術者が期待するほど予算をつけてくれる会社ばかりではありませんでした。
昭和から平成の初めくらいまでは、サービス残業を「自己研さん」という言葉に置き換えて、日夜研究開発にまい進した人は多いでしょう。会社で昼夜の食事を共にしたり、ときには「山ごもり」などの名目で泊まり込んだりして、これからの技術の在り方や品質向上の仕方について語り明かしてきました。
同僚技術者との密な交流の中で、新しいアイデアが生まれることも多くありました。「昔は遅くまでダラダラと残業していた」などと批判されることもありますが、決してそればかりではなかったと筆者は思います。
最近になって、企業は働き方改革を推進し始めました。さらにコロナ禍による出社制限、人件費をはじめとした経費効率化が進み、残業がしにくくなりました。限られた時間で仕事を終わらせるため、とにかく仕事にまい進します。隣に座っている同僚も必死の形相で仕事に集中しているので、気軽に声もかけられません。唯一の情報交換や発想の場だった喫煙所にも足を運びにくい状況になりました。
こんな日々を過ごしていると、部署の他メンバーが何をしているか分からなくなってきます。それぞれが担当技術を持ち、チームの代表として他部署とのミーティングに参加しているので、他部署の人から自分の部署の取り組みを教えてもらうことすらあります。
自分の仕事はきちんとこなしているが、仲間との連携がない。新たな人との出会いもなく、発想の場もない。これこそいわゆる「たこつぼ化」です。