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編集部注:2020年6月5日公開の記事を再編集したものです。記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 いすゞ自動車とユーグレナのバイオ燃料開発。2013年1月、いすゞ社内コンテスト後のアプローチによって両者は出会い、その後、実現に向けて急激に議論を加速させる。そんなある日、ユーグレナ技術開発陣の「軽油からの完全置き換えを目指す」という言葉に対し、いすゞの小林寛(同社コーポレートコミュニケーション部シニアエキスパート)の頭にはある不安がよぎった――。(本文は敬称略)

ユーグレナが開発したバイオディーゼル燃料のサンプル
ユーグレナが開発したバイオディーゼル燃料のサンプル
(出所:ユーグレナ)
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 これまでの軽油と完全に置き換えられるということは、いすゞはエンジンの調整が不要になり技術面では楽ができる。一方、軽油で動くどのエンジンにも使えることになり、それは協業相手がいすゞである理由を失うことを意味した。両社で苦労して実現したところで、他の商用車メーカーにも簡単に供給できてしまうからだ。

 このままでは、いすゞの社内説得は難しい。そこで、小林は考え方を変えた。いすゞが同バイオ燃料を独占して使うのではなく、いかに燃料のコストを下げていくのかに注視すべきではないか。

 あらゆるディーゼルエンジンに使える燃料ということは、いすゞがこれまで販売してきた既存車両にもそのまま使える。そして、他社を含めた世界中のディーゼルエンジンに供給を増やせば、燃料のコストは量産効果で下げられる。将来的に、同バイオ燃料がもたらす環境貢献は地球規模のものになる。このメリットを推すことで、小林はいすゞ社内の賛同を集めることに成功した。

実証プラント建設へ

 一連の開発工程は終盤を迎え、いよいよユーグレナは燃料の製造に向けて動きだす。横浜市にバイオ・ジェット・ディーゼル燃料の製造実証プラントを建設し、18年秋に試運転を開始した。

 しかし、当時のユーグレナの本質は“ミドリムシ屋”である。バイオ燃料の研究には取り組んでいたものの、プラント建設に関する知見は乏しかった。石油精製と似た製造プロセスが必要なバイオ燃料は、運用面でも技術的な難易度が高い。石油プラントの運転員といった特殊なスキルを持つ人材が不可欠であった。

 「当初、燃料製造は全くうまくいかなかった。試行錯誤した結果、いつの間にか6年が経過していた」

 ユーグレナ バイオ燃料事業部部長代理(取材時)の江 達は当時をこう振り返る。

 同社が採用する製造技術は、15年に米石油大手のChevron(シェブロン)系エンジニアリング企業からライセンス供与を受けたもの。複数の工程を組み合わせることで、バイオ燃料を製造する大きなプロセスを成していた。

 分割した各工程では予想通りの結果が得られても、一貫したプロセスで連続的に運転すると、想定できないようなトラブルが多発した。それでも、ユーグレナは石油精製のプロ人材を迎え、工程の見直しを繰り返すことで改善を続けていった。

ユーグレナが横浜市に建設したバイオ・ジェット・ディーゼル燃料の製造実証プラント
ユーグレナが横浜市に建設したバイオ・ジェット・ディーゼル燃料の製造実証プラント
2018 年秋に試運転を始めた。現状、同プラントではミドリムシと廃食油を組み合わせてバイオ燃料を製造している。(出所:ユーグレナ)
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