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潤滑性能ですれ違い

 「これで本当に進めるつもりですか」
 「これではエンジンが焼き付いて壊れます」

 実証プラントでの燃料製造が進んできたある日、いすゞの小林はユーグレナの技術者に向かってこう切り出した。小林が指摘したのは、軽油の基本性能の1つである潤滑性能の項目だった。

 日本の規格では、軽油の潤滑性能に関する数値規定はない。ただ、ディーゼルエンジンは2500気圧まで加圧して動かす場面もあり、燃料自体の潤滑性はエンジンの耐久性に影響を及ぼす。加圧時に潤滑性能が足りずにピストンが焼き付けば、エンジンは一瞬で使い物にならなくなる。

 以前は、軽油中の硫黄成分が潤滑剤の役割を果たし、新たに添加物を加える必要はなかった。それが、排ガスの浄化の機運が高まると、軽油から硫黄を抜く脱硫という加工を施すのが一般的になってきた。現在の一般的な軽油では、脱硫で低くなった潤滑性能を補うために、添加剤として潤滑性向上剤を足している。

 これに対して、当時のユーグレナの実証プラントでは、市販の軽油に10%のバイオ燃料を混ぜて出荷していた。そのため、90%を占める軽油で全体の潤滑性を確保できる。仮に残り10%のバイオ燃料の潤滑性が低い場合でも、エンジンの焼き付きといった支障を及ぼすとは考えにくい。

 「分かります。でも、軽油を100%代替できると宣言する以上は、バイオ燃料自体の潤滑性能もしっかり高めるべきでしょう」

 小林はユーグレナに強く訴えた。ユーグレナとしては、現状の性能で規格上は問題ないため、手間の追加はできるだけ避けたかった。ただでさえ高価なバイオ燃料に、追加のコスト上昇要因が発生するからだ。

 さらに、同社の実証プラントには潤滑性向上剤などの添加物を加える工程が用意されておらず、一貫したプロセスのどこで加えるのが最も安全で効率的かも分からない。

 ユーグレナは徹底的な議論の末、いすゞの要望を受け入れることにした。ユーグレナにも、軽油を100%代替できることを証明したいという意気込みがあったからだ。課題だった添加剤の投入は、製造プロセスを担う技術者の健闘もあり、追加の設備を導入せずに運用面の改良で実現した。この努力が報われバイオ燃料のコスト上昇は抑えられた。