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編集部注:2021年7月26日公開の記事を再編集したものです。記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 ヤマハ発動機の大型主力モデル「MT-09」向け軽量ホイール開発。末永健太郎(同社PT技術部第1製技G鋳造技術)らプロジェクトチームは、製造現場の協力を得てついに専用アルミ合金の開発に成功した。だが、2017年後半。ホイール設計に移ろうとした末永らに車両の開発日程という新たな壁が立ちふさがった――。(本文は敬称略)

 「かなり挑戦的な設計になりそうですね」

 専用アルミ合金を持ち込んだ末永らに、ホイール設計部門(ホイールGr)の設計者はこう漏らした。これまで数々のバイク用ホイールを設計してきたが、そのどれとも違う特徴を持っていたからだ。

 末永らは抜本的な軽量化を狙い、バイク用ホイールとしては初めてとなる回転塑性加工の適用を目指していた。同工法は、ろくろでつぼを成形するように、ホイールを回してリムを金属ローラーで押ししごくもの。鋳造ホイールでありながら、鍛造ホイールのような高い強度と靭性(じんせい:素材のしなやかさ・粘り強さ)を実現できる。

ホイール製造時の回転塑性加工[1]
(出所:ヤマハ発動機)
ホイール製造時の回転塑性加工[2]
(出所:ヤマハ発動機)

 設計者が「挑戦的」と表現したのは、CAD(コンピューターによる設計)上で示すホイールの挙動が従来品と大きく異なる可能性が高かったから。材料の強度だけ、靭性だけの違いなら予測しやすいが、これらが同時に変化すると対応手段は掛け算的に増加する。これまでの常識や手法が通用せず、あらゆる数値パターンを地道に試すしかない。

 「また不合格か、これで何回目だ」
 「……。数えたくもありません」

 設計者は日々評価試験に臨むが、なかなか合格にこぎ着けられずにいた。通常のホイール設計では、経験・ノウハウの有効活用によって「一発合格」が当たり前。このような再試験などほとんどない。

 評価試験に要した工数は通常の10倍に及んだ。最後まで設計者を苦しめたのが、ホイールの強度をどう確保するかの部分である。材料技術部の粋を集めた専用アルミ合金をもってしても、装着時よりはるかに大きい荷重を用いた評価試験はなかなか乗り越えられなかった。

 もちろん、ホイール各部位の板厚を増やせば容易に合格できたであろうが、軽量化を主眼に置いた次世代ホイールであるため妥協は許されない。材料技術部や製造部などの協力を得ながら日々の設計・評価を進め、苦節数カ月、見事合格を勝ち取る――。

車種決定で「背水の陣」に

 時を同じくして、末永らは搭載車種を決めるべく会議を重ねていた。

 「搭載するなら全面改良(フルモデルチェンジ)時しか選択肢はない」
 「なおかつ当社の主力車種に入れないと意味がありません」