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 近年、ITシステムの大規模障害によって企業が経営責任を問われるケースが増えている。システム障害が大きな話題となるのは、かつて業務効率化のためのツールだったITが、今や企業のビジネスそのものとなったためだ。分散化の傾向が強まり、複雑さを増す最近のシステム障害対策は以前より難しくなっている。システムの堅固さを追求するだけでなく、いずれ障害が起こる前提で回復性(レジリエンシー)をも重視した設計・運用が重要だ。そこでこの特集では回復性の視点から、システム障害対応のポイントを解説する。

 高い回復性を備えるシステムを実現するには、設計・実装面での技術的な工夫だけでなく、障害発生時の手続きの整備や対応する担当者の心構えなどマネジメント面・心理面の対策も重要だ。システム障害などの危機対応時には、しばしば意思決定の誤りが発生する。限られた時間で決断を下さなければいけないプレッシャーや、トラブルの現場にありがちな情報過多あるいは過少な状況が正常な判断を難しくするためだ。

 非常時に意思決定を阻害する要因については、その存在を知っているだけで悪影響を軽減できる。そこで今回は、意思決定の阻害要因とその対策を解説する。システム障害対応に関わる現場のリーダーだけでなく、情報システム部門の担当者や経営層にも参考になるはずだ。

危機対応時に意思決定を阻害する心理的要因とその対策
危機対応時に意思決定を阻害する心理的要因とその対策
出所:野村総合研究所
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 意思決定を阻害する心理的要因には個人的なものと、集団になったときに起こる組織的なものがある。合わせて8つあるそれぞれの心理的バイアスを順番に見ていこう。

システム障害時に個人の意思決定を阻害する5つの心理的バイアス

●正常性バイアス
 事故や災害などが起きても平常時と同じ状態が継続していると捉え、問題を過小評価してしまう人間の特性を「正常性バイアス」と呼ぶ。システム障害に当てはめて考えると、「普段とは違うアラートが出ているのに適切な調査をせず、影響はないと断定するシステム運用現場」「現場から障害報告を受けても、情報システム部門に丸投げして何もしない経営層」などは、正常性バイアスにとらわれているといえる。

●アンカリング効果
 先に与えられた情報によって、その後の判断が影響を受け続けてしまうことを「アンカリング効果」と呼ぶ。最初に受け取った情報が船を留め置くアンカー(錨:いかり)のように作用し、その情報に引きずられることで適切な意思決定や行動ができなくなる。

 例えばシステムの性能が低下した際、初期対応時に誰かが「ネットワークの問題じゃないか?」と言ったとしよう。この発言を受けて担当者がネットワークを疑い続けるも、実際の問題はアプリケーションのデータベースクエリーにあった――。こういった苦い経験を持つシステム管理者は少なくないはずだ。アンカリング効果を避けるため、システム障害対応の現場では仮説と事実が混同しないように意識する必要がある。