全3043文字
PR

 店員「ポイントカードやアプリはお持ちですか?」

 顧客「はい。あれ、電波につながらない……」

 上記は、楽天モバイル(以下、楽天)のユーザーに共通する「あるある話」だ。各種ポイントカードをはじめ、ドラッグストアや小売店などの会員アプリをスマホで利用している筆者もこのような状況に何度も陥っている。いざレジで会計しようとしても店舗内で楽天回線の電波をつかめず、アプリを表示できないのだ。

 楽天はここに来て基地局展開を加速。矢澤俊介副社長によると、2021年9月時点で3万局近くまでその数を増やした。にもかかわらず、店舗内の奥まった場所などでは、つながらないケースが散発する。同社が4G向けに展開する1.7GHz帯の周波数は、建物内などに回り込みにくい特性を持つからだ。

 もちろん同社も手をこまぬいているわけではない。鬼門といえる屋内の通信環境改善に向けて、2つのアプローチで対策を急ぐ。

屋内対策用フェムトセル、1日200~300台を設置

 「屋内の通信環境について確かに利用者から多くの要望を受けており、2つのアプローチで対策を進めている」。楽天で基地局展開を統括する矢澤氏はこう語る。

 同社がまず力を入れるのが、屋内通信環境の改善用に店舗や個人宅に月額利用料無料で提供する小型基地局「Rakuten Casa」の展開だ。矢澤氏は「美容院や飲食店などの店舗を中心にRakuten Casaの設置を進め、1日当たり200~300台の(ペースで)電波を発射している」と打ち明ける。

楽天モバイルが屋内対策で個人宅や店舗向けに用意する小型基地局「Rakuten Casa」。筆者宅にも1台設置した
楽天モバイルが屋内対策で個人宅や店舗向けに用意する小型基地局「Rakuten Casa」。筆者宅にも1台設置した
(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 Rakuten Casaは、店舗や個人宅のインターネット回線に接続し、屋内を楽天回線エリアにできる、いわゆるフェムトセルだ。Wi-Fiアクセスポイントに似た外観と使い勝手で、屋外の基地局では電波が届きにくい屋内の通信環境を改善する。

 矢澤氏によると「月に5000カ所を超える場所に設置しており、合計で数万カ所の設置が終わっている」という。もっとも「新型コロナウイルス感染拡大の影響で休業している店舗も多く、利用者が効果を本格的に実感できるのは、緊急事態宣言があけてからだろう」(同氏)と続ける。

 もう1つの屋内対策は新タイプのアンテナ導入だ。「チルト角やビームを狭めて店舗のレジ部分に電波を集中的に強化するような新アンテナを米国企業と開発した。今後はこのような新しいテクノロジーも使って屋内環境改善に取り組む」(同氏)と意気込む。

 いずれの対策も、隅々まで電波が届きやすいプラチナバンドと呼ばれる周波数帯を持たない楽天ならではの苦肉の策といえる。屋内環境における同社のつながりにくさは、普段の生活の中でほぼ不便を感じなくなった携帯大手3社との差を最も感じさせる。

かつてのソフトバンクに酷似、しかし2つの違い

 携帯大手3社といえども、現在の強靭(きょうじん)なネットワークを一朝一夕で築き上げたわけではない。特に約10年前のソフトバンク(当時のソフトバンクモバイル)の状況は、NTTドコモとKDDI(au)に比べて「つながりにくい」とする利用者の声が多く、楽天の現在に似ていた。

 そんなソフトバンクは2010年3月、通信環境の改善に向けた施策「ソフトバンク電波改善宣言」を発表した。当時約6万局だった基地局数を2010年度中に約12万局に倍増する目標を掲げ、同年5月から個人宅や店舗に小型基地局(フェムトセル)やWi-Fiルーターを無料で提供すると宣言した。これらのアプローチは楽天の取り組みと酷似する。

ソフトバンクが2010年3月に発表した「ソフトバンク電波改善宣言」。1年で基地局数の倍増や小型基地局(フェムトセル)の無料提供などを掲げた
ソフトバンクが2010年3月に発表した「ソフトバンク電波改善宣言」。1年で基地局数の倍増や小型基地局(フェムトセル)の無料提供などを掲げた
(出所:ソフトバンク)
[画像のクリックで拡大表示]