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 「屋内に限らず、都市部のビル裏など、どこでもつながるようにするには、プラチナバンドの獲得が避けて通れない」――。

 こう熱弁をふるうのは、楽天モバイル(以下、楽天)の内田信行執行役員兼技術戦略本部長だ。同社はここに来て基地局展開を加速し、2021年9月時点で3万局近くまでその数を増やした。にもかかわらず、店舗内の奥まった場所などでは、つながらないケースが散発する。同社が4G向けに展開する1.7GHz帯の周波数は、建物内などに回り込みにくい特性を持つからだ。

 そこで同社はプラチナバンドと呼ばれ隅々まで電波が届きやすい700M~900MHz帯周波数の獲得を熱望する。しかもNTTドコモやKDDI、ソフトバンクの携帯大手3社に割り当て済みのプラチナバンドを一部、縮減して再配分してほしいという前代未聞の主張を繰り広げている。

 総務省の有識者会議を舞台に繰り広げられた楽天と携帯大手3社のバトルは、まだ決着をみせていない。楽天が悲願のプラチナバンドを獲得するには、多くの関門を乗り越える必要があり、長い道のりが予想される。

最初の勝負は22年10月の再免許

 前代未聞のプラチナバンド再配分議論の舞台となったのは、総務省が20年末から21年8月まで開催した有識者会議「デジタル変革時代の電波政策懇談会」だ。20年12月開催の第2回会合で、楽天モバイルの山田善久社長が「既存プラチナバンドを再配分して新規参入事業者への機会の平等を実現してほしい。プラチナバンドの割り当ては15MHz幅が一つの単位になっている。携帯大手3社の15MHz幅をそれぞれ10MHz幅に縮減することで、公平な割り当てになるのではないか。割り当て幅を減らすことはソフトウエアの改修だけで対応できるのではないか」とぶち上げた。

楽天モバイルが総務省の有識者会議でぶち上げた、前代未聞のプラチナバンド再配分案
楽天モバイルが総務省の有識者会議でぶち上げた、前代未聞のプラチナバンド再配分案
(出所:楽天モバイル)
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 当然ながら携帯大手3社は猛反発。「地方では、プラチナバンドを使ったキャリアアグリゲーション(CA)によって高速化を図っている。急激にプラチナバンドを減らすことは設計上難しい」(ソフトバンク)、「8000万の当社利用者に影響を与えかねない。場合によってはハード機器の改修も必要になる。(プラチナバンド再配分は)期間も費用もかかる」(NTTドコモ)、「例えばリピーター(中継局)は周波数固定で設計しており、改修が必要になる」(KDDI)といった反論を繰り広げた。

 結局、21年8月にまとまった懇談会の報告書では、プラチナバンドに限らない「普遍的」な周波数の再割り当て制度の新設こそ明記したものの、プラチナバンド再配分については多くの課題が検討持ち越しとなった。

 楽天の内田氏は「他社が所有する周波数に対して新規事業者が(再割り当てに)チャレンジできる制度自体、生きている間に実現するとは思っていなかった。画期的なことだ」と懇談会の成果を評価する。とはいえ、楽天自身が求めるプラチナバンドの早急な獲得については「さまざまな課題が残っており、結構チャレンジングであることも確か」(同氏)と続ける。

 では、楽天が考えるプラチナバンド獲得に向けたベストシナリオとはどういったものなのか。内田氏は「23年4月ごろから一部地域でプラチナバンドを利用できるようになることが、我々にとってのベストシナリオだ」と打ち明ける。

楽天モバイルが想定するプラチナバンド獲得に向けたベストシナリオ。23年4月ごろから部分的に使えるようになる形が理想的という。しかし実現に向けては少なくとも4つの関門が控えている
楽天モバイルが想定するプラチナバンド獲得に向けたベストシナリオ。23年4月ごろから部分的に使えるようになる形が理想的という。しかし実現に向けては少なくとも4つの関門が控えている
(出所:楽天モバイルへの取材を基に日経クロステック作成)
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 具体的には、まず総務省が懇談会の報告書を受け、普遍的な周波数の再割り当て制度の整備を進める。22年の通常国会に法案を提出し、22年10月までに施行というものだ。

 なぜ楽天は22年10月までの施行にこだわるのか。実は、22年9月末が携帯大手3社が持つプラチナバンドの免許期間(5年間)の更新タイミングだからだ。周波数はよっぽど有効利用されていない場合を除き、再免許(5年間)となるのが通例。このタイミングを逃すと、楽天にとって携帯大手3社の再配分によるプラチナバンド獲得のチャンスは、5年後の27年10月になってしまう。

 もっとも普遍的な周波数の再割り当て制度が施行されただけでは、プラチナバンド再配分に向けた準備は不十分だ。周波数の再割り当て制度は、大枠の法整備のみを規定する形になるだろう。新たな制度の下でプラチナバンド再配分を進めるには、楽天と携帯大手3社の間で平行線をたどっている個別具体的な課題を解決し、プラチナバンドを対象にした開設指針などを準備する必要がある。

 楽天のベストシナリオでも、22年10月の段階ではプラチナバンド競願時の制度整備まで間に合わないという見立てだ。内田氏は「22年10月の再免許のタイミングでは、いったんは現在の持ち主(携帯大手3社)に周波数が再免許されるだろう。ただ23年に入ってプラチナバンドにチャレンジできる競願の動きが始まればよいと考えている。27年10月以降の所有権を競う形になるが、終了促進措置を活用し、我々が移行費用を支払うことで前倒しでプラチナバンドを使い始められるようにしたい。23年4月ごろから一部地域でプラチナバンドを使い始められるのが一番理想的だ」と続ける。