日本興業銀行(現みずほ銀行)を辞めた三木谷浩史氏らが、EC(電子商取引)の黎明(れいめい)期である1997年に立ち上げた通販サイトの「楽天市場」。日本のインターネット普及と歩調を合わせるように急成長した。余勢を駆って、三木谷氏率いる楽天(現・楽天グループ)は旅行予約サービス「楽天トラベル」(2001年開始)やクレジットカードの「楽天カード」(2005年発行)、ネット銀行の「楽天銀行」(2009年参入)など事業領域を順次拡大。並行して、楽天カードの利用でたまったポイントを楽天市場の買い物で消費してもらうなど、グループ内の様々なサービスをユーザーに回遊してもらいながら相乗効果を高める「楽天経済圏」を築いてきた。
楽天グループは今や70以上のサービスを手掛け、2021年12月期における国内EC流通総額を5兆円と見込む。三木谷氏が「第2の創業」とぶち上げて携帯電話事業に参入したのは、この経済圏を一層拡大できると期待するからだ。楽天モバイルによるスマホサービスを消費者の身近な「窓口」に据え、より多くの会員を経済圏に呼び込むことを狙う。同社は2030年ごろに国内EC流通総額を10兆円規模にまで高める考えだ。
この楽天経済圏に今、異変が生じている。
「どんどん改悪が進む」「楽天経済圏に浸っている人ほど大打撃」「顧客を囲い込み、徐々にサービス低下や値上げをする。ビジネスの世界では当然だけど、lT企業は露骨なんだよな」――。
2021年10月初旬、Twitter上に嘆きの声が広がった。楽天グループが10月1日、経済圏にいざなう要である「楽天ポイント」の付与ルールを見直す、と発表したのがきっかけだ。基本的に100円につき1ポイントがたまる楽天ポイントは、税込み価格を対象に付与されている。これを2022年4月から、税抜き価格を対象に変更する。例えば税抜き価格が1万円の商品を購入した場合、現在は税込み価格である1万1000円の1%に当たる110ポイントを還元している。それが今回の措置により110ポイントから100ポイントに減ることになる。
楽天ポイントを巡っては、楽天グループ傘下のクレジットカード会社である楽天カードが2021年4月に「楽天ゴールドカード」の内容を変更したことも消費者の話題を呼んだ。このカードを使って楽天市場で買い物すると、以前は基本の1%に加えて4倍のポイントを付与していた。つまり利用者は合計5%分を獲得できた。だが2021年4月からポイント倍率をプラス2倍に引き下げたため、年会費無料のカードと同等の合計3%分しかためられなくなった。「もともと条件が良すぎた」との見方もあるが、ポイント目当てでカード契約した人にとっては「改悪」だ。
独自配送網をひっそりと終了
異変が生じているのは楽天ポイントだけではない。顧客宅までの「ラスト・ワンマイル」の配送網を独自に構築して荷物を届ける「Rakuten EXPRESS」。2016年に試験運用を始め、2018年からは楽天グループが掲げた次世代物流構想「ワンデリバリー」の一環として提供地域を急拡大したが、2021年夏にひっそりと終了した。日本郵便との共同出資で7月1日に設立した物流新会社「JP楽天ロジスティクス」が楽天グループの物流事業を承継し、楽天グループが持つ物流拠点を日本郵便の配送網に組み込む形に切り替えた。
楽天グループが独自配送網の構築を目指したのはRakuten EXPRESSで2度目だ。最初の挑戦は2010年。物流子会社「楽天物流」を設立し、トヨタ自動車から引き抜いた武田和徳氏(現・楽天グループ副社長執行役員)の陣頭指揮で全国規模の物流網整備に挑んだ。だが2014年にこの構想を撤回。子会社は解散し楽天グループが吸収合併した経緯がある。
「(楽天グループはRakuten EXPRESSに)かなり本気で取り組んでおり、ちょっとやそっとではやめないように見えた。ただし、物流インフラの投資回収には相当な時間がかかるもの。その点が、スピード重視のネットビジネスを手掛けてきた楽天グループには我慢しきれなかったのだろう」。物流のコンサルティングを手掛けるイー・ロジット(東京・千代田)の角井亮一社長はこう分析する。