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 経済産業省と東京証券取引所が年次で発表する「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄」。2021年6月発表のDX銘柄2021では「デジタル×コロナ対策企業」の部門を設け、コロナ禍においてデジタル技術を活用し優れたコロナ対策を講じている企業11社を選定した。選定企業の1社、通信販売大手のアスクルはコロナ禍においてマスクなどの衛生用品について、一部の顧客による買い占めを防ぎ、本当に必要としている顧客へ優先販売する「売らないマーケティング」に取り組んだ。

 新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年4月ごろ、爆発的に需要が増したマスクや消毒液、体温計などの衛生用品市場では買い占めや高額転売などの問題が発生していた。そんな状況に対し、アスクルはいち早く手を打った。顧客の登録データや行動データなどを分析し、対象の衛生商品を本当に必要としている顧客へ販売する「売らないマーケティング」を始めた。

 転売目的の買い占めなどを防いで商品価格と供給を安定させ、感染予防商品を必要とする医療施設などに安価に届けることが狙いだ。「売る側が顧客を区別するのは正しいのか、という葛藤はあったが、企業ミッションである社会課題の解決を果たすべきだと考えた」。アスクルの宮沢典友執行役員CDXO(チーフ・デジタルトランスフォーメーション・オフィサー)テクノロジスティクス本部長は取り組みを決めた理由をこう語る。

 「売らないマーケティング」では顧客の業種や検索履歴、過去の購入回数や最終購入日、利用頻度などを分析。それらのデータと、マスクや消毒液、体温計などの商品の在庫数量や入荷日などを掛け合わせて、顧客ごとに供給できる品目とその個数を算出した。この算出結果に従い、各顧客に販売の案内メールを送信。定めた期限まで顧客ごとに在庫を確保した。

 この仕組みにより、一部の顧客が買い占める状況を緩和できたという。対象の衛生商品を販売した顧客数は、導入前に比べて導入後は顧客IDベースで5倍以上に増えた。

アスクルが対象顧客に送った購入案内メール
アスクルが対象顧客に送った購入案内メール
(出所:アスクル)

 各顧客にどれだけの衛生用品を販売するかは、アスクル社内のデータサイエンティスト4人がデータを分析して決めることにした。人工知能(AI)を使う検討をしたが、「学習データの蓄積などに時間がかかりすぎる」(宮沢執行役員)と判断し人手で分析することにした。

 データ分析ソフトとして、米SAS Instituteの「SAS」を活用。過去半年間の顧客のデータを分析対象にした。宮沢執行役員は「スピード感が求められる対応だったが、データサイエンティストたちは社会課題に対する意識が強く、尽力してくれた」と振り返る。

「売らないマーケティング」の仕組み
「売らないマーケティング」の仕組み
(出所:アスクル)