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 全日本空輸(ANA)が長引く新型コロナウイルス禍に苦闘を続けている。持ち株会社ANAホールディングス(ANAHD)の2021年4~6月期決算では、売上高が1989億円、営業利益が646億円の赤字、純利益も511億円の赤字となった。

 いずれの数字も新型コロナ禍の第1波で最初の緊急事態宣言が発令された前年同期よりは改善しているが、新型コロナ禍以前の2019年4~6月期と比べて売上高は6割ほど減っている。頼みのワクチン接種は進んでいるが、2021年秋から年末にかけて第6波の到来が懸念されるなど、航空需要の本格的な復調にはしばらくかかりそうだ。

 そんななかでもANAが「逆襲」に向け、着々と取り組んでいることは知られていない。舞台となるのは同社のIT部門だ。新型コロナ禍で大きな影響を受けた空港などの部門から若手社員を異動させ、リスキリング(学び直し)などを通してIT人材に「内製」し、システム開発の現場に投入。情報システムの内製体制を強化してアフターコロナに備えている。

 若手社員に学ばせているのはローコード/ノーコードといった「開発知識不要」をうたう簡易な技術ではない。「手を動かす」ITエンジニアとして必要な実践的な内容である。

 具体的には、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)のパブリッククラウド「Amazon Web Services(AWS)」におけるインスタンスの立ち上げや運用、プログラミング言語「Python」による機械学習のプログラミング、米Tableau Software(タブローソフトウエア)のBI(ビジネスインテリジェンス)ツール「Tableau」を使ったデータの分析と可視化の進め方、オープンソースのRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)である「PostgreSQL」によるデータベースの操作――などだ。

 しかも第1期の若手社員たちはリスキリングの開始から3~6カ月で実際の開発プロジェクトに加わり、次々と立ち上がる新システムの開発で貴重な戦力となり活躍している。

入社半年で異動、「1時間に接客3人」の空港からIT子会社へ

 実際に即戦力となった若手社員が、ANAのIT子会社であるANAシステムズのデータソリューション&サービス部データドリブンチームに所属する北原理紗氏と岸宏行氏だ。2人はもともと2020年4月にANAへ入社し、北原氏は成田空港で、岸氏は羽田空港でそれぞれ国際線の地上係員業務に就いていた。

ANAシステムズの北原理紗氏。データソリューション&サービス部データドリブンチームに所属する
ANAシステムズの北原理紗氏。データソリューション&サービス部データドリブンチームに所属する
(撮影:日経クロステック)
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ANAシステムズの岸宏行氏。データソリューション&サービス部データドリブンチームに所属する
ANAシステムズの岸宏行氏。データソリューション&サービス部データドリブンチームに所属する
(撮影:日経クロステック)
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 ただ2人が配属になった時期は、既に新型コロナ禍の深刻さが増し、国際線の乗客はほとんどいなかった。「チェックインカウンターに1時間立っていても、3人くらいしかお客さまと対面しない状況だった」(北原氏)、「予定通りの訓練が受けられず、1カ月くらいしかチェックインカウンターに立てなかった」(北原氏)――。