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 全日本空輸(ANA)がシステム開発やデータ分析をできるIT人材の「内製」を検討し始めたのは、新型コロナウイルス禍が広まる直前の2020年初頭のことだ。同社はそれ以前から、旅客サービスや整備などをITで高度化すべく投資を進めていた。

IT人材が中途採用で十分に集まらない

 例えばANAの航空便を利用する乗客とANAとの接点は1つではない。Webサイトやコールセンターで航空券を予約するところから始まり、チェックインカウンター、ラウンジ、搭乗口、機内などと、1人の乗客に向き合うANAグループのスタッフは場面ごとに入れ替わる。

 カスタマージャーニー(顧客が時系列にたどるプロセス)に沿って、それぞれのスタッフが乗客の情報をシステムで共有できれば、例えば「○○様、行きの便では出発が遅れまして申し訳ありませんでした」「本日はお孫さんの誕生日のお祝いでお出かけされるのですね。すてきなご旅行になりますように」などと、システムで引き継いだ乗客情報を基にしたきめ細かな接客につながる。

 そうした接客の高度化以外にも、航空機のセンサー情報を活用した整備の効率化、予約やチェックインを担うWebサイトの使い勝手の向上、航空便ごとの搭乗率と売上高を最大化するために運賃ごとの販売席数を調整するレベニューマネジメントなど、データ分析やシステム開発の余地はANAグループの事業の至る所にあるわけだ。

 一方でデータ分析やシステム開発を担うIT人材を増強しようと新型コロナ禍以前に募集を試みたものの、就職ランキングで常に人気のANAグループとてデータサイエンティストなどの確保は容易ではなかった。

 そこで、リクルートグループでデータサイエンティストとして活躍した経歴を持つANAの西郷彰デジタル変革室イノベーション推進部担当部長らが中心となり、若手社員を対象にした研修プログラムを策定。2020年10月に第1弾となる約10人の育成を始めた。「ネット企業に匹敵する専門人材の育成体制を目指し、若手を徹底的に鍛え始めた」(西郷担当部長)。

ANAの西郷彰デジタル変革室イノベーション推進部担当部長
ANAの西郷彰デジタル変革室イノベーション推進部担当部長
(撮影:日経クロステック)
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「ローコード/ノーコード開発は対症療法」

 西郷担当部長は「目指すのはコードの書けるデータ人材」と話す。研修プログラムではAmazon Web Services(AWS)やPython、PostgreSQL、Tableauなど、クラウド環境でのシステム開発やデータ分析においてデファクト(事実上の標準)となっているツールやプログラミング言語の習得を研修プログラムに組み込んだ。

 ユーザー企業のなかにはローコード/ノーコード開発ができる人材を確保する動きもある。一方で、西郷担当部長は「ローコード/ノーコード開発は対症療法で、それを進めても本質的にかゆいところに手が届かない」と指摘する。「それよりも根本的治癒をするために、(技術的に)踏み込んだ人材を育成する必要がある」。

 とはいえ、AWSのインスタンス構築・運用のように、研修プログラムには初学者にとってハードルの高い内容が含まれる。若手社員たちの挫折を回避しつつ、半年で着実に実務レベルまで引き上げるため、西郷担当部長らは研修プログラムの内容に大きく6つの工夫を凝らした。