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 「政府システムで8000億円、自治体システムで5000億円強、毎年情報システム予算が同じように使われてきた。アーキテクチャー見直しというこれまで誰もができなかったことをやるために(菅義偉前首相は)デジタル庁に強い権限を与えた」――。平井卓也前デジタル相は2021年10月4日、デジタル大臣としての最後の会見でこう切り出し、デジタル庁のやるべきことを改めて強調した。

 具体的には、クラウドサービスの活用と情報システムの統一・標準化を進める。2025年度末までに、複数のクラウドサービスを組み合わせた政府共通のシステム基盤である「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」を整備したり、自治体の基幹業務システム標準化に取り組んだりする。

 「これまで各省庁別や各自治体別に投資していたお金を、全体最適化を踏まえて新たな投資にまとめる。クラウドにシステムを移行することで、(将来的に)大幅にコスト削減につながると考えている」(平井前デジタル相)。

 これまで府省庁や自治体はITベンダーと組んで、それぞれが独自に行政システムを構築・運用してきた。だが、平井前大臣は「今使っている予算の8~9割は維持管理のため。今後もこれまでと同じように予算を使っていくと、そこから得られるアウトカムは現状維持しかない」と断じ、アーキテクチャーからの根本的な見直しの必要性を強調した。

 デジタル庁による統一・標準化とクラウドサービスへの移行の動きは、ITベンダーの公共ビジネスに大きく影響するのは明らかだ。行政システムの数だけでなく顧客数そのものも減るからである。

 そこで日経クロステックは公共ビジネスを手掛ける国内大手ITベンダー4社を対象に2021年9月にアンケート調査した。NEC、NTTデータ、富士通の3社は、ガバメントクラウドに関連した専門部署の設置やクラウド関連サービスの強化などを進めると回答した。日立製作所は社名公開での回答を拒否した。

行政機関向けに、数十人以上の組織を新設

 NEC、NTTデータ、富士通はデジタル庁設置を機に、行政機関向けのシステムやサービスを提供する専門部署をそれぞれ新設した。NECは2021年4月に「ガバメント・クラウド推進本部」を設立。同組織は府省庁を対象に、クラウドサービスなどを活用した行政DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する戦略の提言/推進に取り組む。

 富士通は府省庁を中心に事業を展開する「デジタルビジネス推進準備室」を2021年1月に立ち上げた。2021年10月に組織変更し、現在は「公共デジタル事業本部」となった。自治体向け事業を担う子会社の富士通Japanとも連携し、自治体向け事業も強化する考え。NTTデータは2020年10月に全社横断組織である「ソーシャルデザイン推進室」を設立し、公共分野などにサービスを提供している。

デジタル庁設置に関連して設置した専門部署と強化する分野
(出所:各社のアンケートの回答を基に日経クロステック作成)
ベンダー名新設部署名人数強化する項目
NECガバメント・クラウド推進本部11~50人規模府省庁のレガシーシステムの刷新、自治体の業務標準化への取り組み、マイナンバーカードの民間活用、ワンストップサービス、官民データ連携など
NTTデータソーシャルデザイン推進室11~50人規模府省庁・自治体、金融機関、民間企業など、業界の枠を超えた連携での社会課題の解決
富士通公共デジタル事業本部101~200人規模標準準拠システムの開発・適用、スマート自治体の実現に向けた自治体DX関連製品・サービスの拡充、データ基盤の提供など

 ガバメントクラウドを巡っては、3社ともに行政機関向けのクラウド基盤やクラウド関連サービスの提供を先行させている。NECは2020年からIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)「NEC Cloud IaaS」を行政機関にも提供し始めた。府省庁などを対象にマルチクラウドに対応した接続サービスも提供している。

 同サービスを使うと、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)の「Amazon Web Services(AWS)」や米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」などのパブリッククラウド環境とオンプレミス環境を、閉域回線を使って高い可用性を保ったまま接続できるという。