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 全国約1700の自治体の情報システムには合計で毎年5000億円強の予算が投じられている。デジタル庁が指揮を執り、全自治体は2025年度末までに標準準拠システムに原則移行し、一部のシステムはマルチクラウドで構成する政府共通システム基盤「ガバメントクラウド」を使う。自治体システム標準化とガバメントクラウドという2つの変革により、自治体情報システムの開発・運用を担うITベンダーの勢力図も大きく様変わりする可能性がある。

 どう変わるのか。日経クロステックは2021年9月から12月にかけて、自治体や中央省庁など行政機関向けビジネスを手掛けるITベンダーを対象に、アンケートとインタビューで各社の取り組みを調べた。社名公開の同意があったのは21社である。

地方ベンダーは「売り上げ減少」

 これまで自治体は主に国内ベンダーと組んで、それぞれ独自に情報システムを開発・運用してきた。これが、デジタル庁が中心となって進める標準化とガバメントクラウドによって大きく方針転換する。対象となるシステムは住民記録や税、福祉といった17業務と戸籍などの3業務を併せた合計20業務に関する情報システムだ。

 標準化とガバメントクラウドが自社の事業にどう影響するかを聞いたところ、国内大手はNTTデータが「自治体DXが進むとともに情報連携の可能性が増すと期待」、富士通が「行政システムの統一化やサービスのデジタル化が進むと期待」とした一方で、NECは「詳細仕様がわからないためコメントしない」とした。一方地方ベンダーであるTKCと両備システムズは売り上げが減るとした。共に、自社データセンターのプライベートクラウド環境に構築した自治体システムの利用が減ると見込む。

 今後強化する分野では国内大手ベンダーは標準準拠システムへの対応を挙げたのに対し、地方ベンダーやベンチャーなどは行政手続きオンライン化といった自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)支援事業を挙げた。政府は2020年12月に「自治体DX推進計画」を、2021年7月には「自治体DX推進手順書【第1.0版】」を公開するなどして、自治体システム標準化に加え、行政手続きオンライン化などのDXを推進している。

自治体システム標準化とガバメントクラウドによる自社事業への影響と、今後強化する分野
(出所:各社へのアンケートと取材を基に日経クロステック作成)※1 ISMAP:政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(イスマップ)。※2 SaaS:ソフトウエア・アズ・ア・サービス。※3 ERP:統合基幹業務システム
企業名自治体システム標準化とガバメントクラウドによる自社事業への影響今後強化する分野ISMAP(※1)に登録されたサービス
国内ベンダーNEC詳細仕様が分からないためコメントしない府省庁のレガシーシステムの刷新、自治体の業務標準化への取り組み、マイナンバーカードの民間活用、ワンストップサービス、官民データ連携などNEC Cloud laaS
NTTデータ自治体DXが進むとともに情報連携の可能性が増すと期待府省庁・自治体、金融機関、民間企業など、業界の枠を超えた連携での社会課題の解決OpenCanvas(IaaS)
SBテクノロジー政府が進める標準化・共通化の取り組みを中心にビジネスを展開しているため、追い風と感じている電子申請システム、セキュリティーサービスなどなし
TKCデータセンター利用料などの売り上げが大幅に減少一気通貫での住民向けサービス、基幹業務システムや窓口業務効率化を支援するシステム、行政手続きのオンライン化などなし
富士通行政システムの統一化やサービスのデジタル化が進むと期待標準準拠システムの開発・適用、スマート自治体の実現に向けた自治体DX関連製品・サービスの拡充、データ基盤の提供などFUJITSU Hybrid IT Service FJcloud
両備システムズ自社データセンター利用が減り、対象の基幹系システムの事業は売り上げ減少複数自治体のシステム共同利用、クラウド提供、自治体DX支援などなし
外資ベンダーGoogle CloudGoogle Cloud Platformがガバメントクラウトの1つに選定。自治体システム標準化が進むことで行政機関がパブリッククラウドを利用しやすい環境が整うことを期待行政機関で利用しやすいように各種セキュリティー機能を強化。利用しやすい価格体系の導入も検討Apigee Edge、Google Cloud Platform、Google Workspace
SAPジャパンガバメントクラウドや標準化は歓迎するが、今後SaaS(※2)活用を期待業務プロセス分析などのほか、会計、人材などでERP(※3)の導入なし
アマゾン ウェブ サービス ジャパンデジタル庁がプロバイダーと直接契約することが大きな変化クラウド人材育成、ベンチャー企業などの公共領域への参画を促すAmazon Web Services
セールスフォース・ドットコム直接の影響はない。ガバメントクラウドでのSaaS活用を期待業務プロセス整備、データ統合、職員の業務効率化などSalesforce Services、Heroku Services
日本オラクル政府機関や公共向けビジネスプロバイダーでの自社クラウドサービスの採用を期待自社製品と自社のマネージドサービス型を組み合わせて提供するクラウドサービスOracle Cloud Infrastructure、Oracle Cloud Infrastructure Platform as a Service、Oracle Exadata Cloud@Customer
日本マイクロソフトクラウドサービスの契約者と利用者が異なるため、サポート体制の強化などが必要になる全てのクラウドサービスMicrosoft Azure, Dynamics 365, and Other Online Services、Microsoft Office 365
ベンチャー、ネット企業などGMOグローバルサイン・ホールディングス今のところ大きな影響はないが、基幹系標準化整備後の電子署名やマイナンバーカード活用に期待電子署名サービス、マイナンバーカードを使った本人確認サービスなどなし
TRUSTDOCK直接的な影響は特にない本人確認サービスなどなし
LINE回答しないLINE公式アカウントなど、これまで省庁や自治体で活用しているサービス・技術なし
グラファー具体的な影響という観点では現時点ではない。だが、ガバメントクラウド導入がある前提で今後のサービス提供を考え直していく必要がある手続きを受け付けた後の職員工数の削減に資するサービスなし
コニカミノルタ標準化の過程で我々のツールが活用されると考えている自治体DXプラットフォームの改善と拡大、ベンダーなどのパートナー企業との連携なし
サイボウズ直接的な影響は特にない各施策全て力を入れるが、特に自治体間がつながるコミュニティーづくりを強化し、情報発信を増やすcybozu.com、Garoon、kintone
さくらインターネットパブリック・クラウド・サービスを提供する企業として追い風自治体向けの事業、SaaS提供など申請中
トラストバンク直接的な影響は特にない住民サービス向上と自治体の事務効率改善のためのデジタルツールなし
ヤフー回答しない(Yahoo!JAPANのビッグデータ分析サービスである)DS.INSIGHTなし