デジタル庁は2021年度中に「ガバメントクラウド」の運用を始め、2025年度末までに全地方自治体の標準準拠システムを可能な限り移行させる。これに伴い、自治体の情報システムは今後、クラウド利用が第一選択肢となる。好機到来とみて、クラウドベンダーが攻勢をかけている。

AWSとMSが相次いでガブテックベンチャーを支援
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は2022年初めにも、同社のクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」を使って「行政サービスのデジタル化」、いわゆるGovTech(ガブテック)を手掛けるベンチャー企業を対象に、支援プログラムを提供する。具体的には、経済面や技術面の支援に加えて、行政機関の調達への参加や契約も支援する。コミュニティーもつくる予定という。グローバルで展開する「AWS Public Sector Startup Ramp」の日本版との位置付けだ。
狙いは、パブリッククラウドを使う自治体ビジネス新たなエコシステム(生態系)を形成することである。AWSジャパンで公共分野を統括する宇佐見潮執行役員パブリックセクター統括本部長は「ガバメントクラウドの整備を通して、比較的規模の小さいベンチャー企業でも行政機関向けにITサービスなどを提供する環境ができた」と話す。
日本マイクロソフトも自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むガブテックベンチャーを支援する新たなプログラム「Microsoft Enterprise Accelerator GovTech」を始めると2021年11月に明らかにした。具体的には、行政手続きオンライン化など自治体のフロント系サービスを提供する企業を支援する。「Microsoft Azure」「Microsoft Office 365」といった自社クラウドサービスについて、ベンチャー各社がフロント系サービスで使ったりフロント系サービスと連係したりするように働きかける。
日本マイクロソフトの木村靖業務執行役員デジタル・ガバメント統括本部長は「ガブテックベンチャーが提供するサービスと、Microsoft Office 365などを連係させた場合の『強み』を生かしたい」と話す。例えば自治体をはじめとする行政機関でも導入が進むクラウドサインの電子契約サービスは、日本マイクロソフトのコミュニケーションツール「Microsoft Teams」と連係させるとTeams上で電子契約が完結する。
PaaSとSaaSが主戦場に
ガブテックベンチャーやクラウドベンダー、ネット企業が自治体ビジネスへの新規参入で狙う領域が、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)やSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)である。自治体ビジネスにおいて長らくこの領域は「空白地帯」だったが、ガバメントクラウドによって事態が変わるからだ。
政府は2020年12月に閣議決定した「デジタル・ガバメント実行計画」で、ガバメントクラウドを、「共通的な基盤・機能を提供する複数のIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)やPaaS、SaaSを利用できる環境」と定義した。デジタル庁は2021年10月に、自治体情報システム標準化に向けたガバメントクラウドの先行事業において、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)のAWSと米Google(グーグル)の「Google Cloud Platform(GCP)」を採択した。今後はIaaSだけでなく、PaaSやSaaSもガバメントクラウドで採用される見込みだ。