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 JFEグループは2021年8月、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を発表した。21~24年度の4カ年の中期経営計画期間にグループ総額で1200億円を超えるDX投資を実施し、既存ビジネスの変革と新規ビジネスの創出を進める。JFEホールディングス常務執行役員の北島誠也氏は「JFEグループは創立以来最大の変革期にある。最大の変革を実現する鍵がDXだ」と力を込める。

 DX戦略の中核を担うのがJFEスチールだ(図1)。鉄鋼大手の同社は、現実のプロセスと仮想空間でのモデル「デジタルツイン」を組み合わせ、異常予知や仮想実験を行えるCPS(サイバーフィジカルシステム)の全製造プロセスへの適用を目指す。

図1 デジタルツイン/CPSには厳しい製鉄工程
図1 デジタルツイン/CPSには厳しい製鉄工程
1500度を超えるような超高温プロセスが多く、データを収集するセンサーを取り付けるのが難しい。それでも、国内の全8高炉にCPSを導入済みだ。(写真:JFEスチール)
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 製鉄は、高炉で銑鉄を作る「製銑(せいせん)」工程から始まる。そこから、粗鋼を作る「製鋼」、熱を加えて粗鋼を薄く延ばす「熱間圧延」、熱を加えずに延ばす「冷間圧延」、焼きなましをする「焼鈍(しょうどん)」、表面に薄膜をつける「メッキ」といった具合に仕上げていく。

 製造プロセスの中で、JFEスチールが真っ先にCPSを導入したのが高炉だった。既に、国内の全8高炉にCPSを導入済みだ。炉熱の予測や異常の検知に仮想モデルを活用して、必要に応じて現実の炉を運用するオペレーターに適切な操作を案内するなどしている。今後は、CPSを活用した操業や品質管理のノウハウを、新興国の鉄鋼メーカーなどにサービスとして外販していく方針だ。

失敗すれば数千億円の損失も

 「高炉に亀裂が入ると最悪で、復旧不可能になってしまう。社内からも、『本当に大丈夫か』と散々言われた」。こう振り返るのは、JFEスチール専務執行役員の大河内巌氏である(動画)。

動画 JFEスチール専務執行役員が語る高炉DXの舞台裏
制作:日経クロステック(音声あり)

 同社は20年9月17日、前代未聞の手法によって西日本製鉄所の福山地区(広島県福山市)で一時休止していた「第4高炉」を再稼働させた。従来手法では6カ月以上かかる再稼働までの期間を、CPSで実現した仮想的な高炉とデータサイエンスを活用することで約2カ月に短縮した。正確には、「1カ月で立ち上げ、もう1カ月でベストな状態に持っていけた」(同氏)という。

 事の発端は、新型コロナウイルスによる需要の急減である。JFEスチールは生産能力を3割ほど落とす必要に迫られた。福山地区の第4高炉は6月20日に一時休止した(図2)。一時休止によって赤字が膨らむ中で、第4高炉の立ち上げに向けた作業が始まったのは20年8月26日。想定よりも早く、自動車業界を中心に需要が戻ってきた。

図2 JFEスチール西日本製鉄所の福山地区「第4高炉」
図2 JFEスチール西日本製鉄所の福山地区「第4高炉」
新型コロナウイルスによる需要急減によって、一時休止に迫られた。(写真:JFEスチール)
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 1日でも早く再稼働したいが、急ぐあまり高炉にダメージを与えれば、数千億円規模の損失が発生しかねない。365日24時間の稼働を約20年間続けることを前提とする大型高炉。付帯する製鋼設備まで含めると、5000億円から1兆円近い費用がかかるとされる。

 それでも自信を持って新手法に挑戦できたのは、高炉に導入したCPSがあったからだ。現実のプロセスをデジタルツインで仮想空間に再現し、異常予知や仮想実験を行える仕組みを構築していた。