そもそもデジタルツイン(Digital Twin)とは何か。直訳すれば、「デジタルの双子」。IoT(インターネット・オブ・シングズ)などにより収集した物理空間の情報をデジタル空間に送ることで、現実世界を模した「双子」となる世界をデジタル空間内に再現したものである。

 デジタルツインは特定のITプロダクトを指す言葉ではない。物理空間のデータを収集するセンサーや3Dスキャニング、デジタル空間の情報を現実世界に再現するAR(拡張現実)、VR(仮想現実)などの技術を総称する概念だ。

 現実世界を再現したデジタル空間においてシミュレーションを実施し、その結果を現実世界の活動へフィードバックするといった形で活用する。物理空間に変更を加えず迅速にシミュレーションできることから、不確実性の高い事業環境への対応や、顧客への個別最適化したサービス提供に寄与する概念として、デジタルツインに注目する企業が増えている。

 重要なのはどう使いこなすかだ。現実世界に張り巡らせたセンサーの情報からデジタル空間に“双子”を生み出すことがゴールではない。

3つの先進事例の現場に迫る

(写真:JFEスチール、Bosch、ニチガス)
(写真:JFEスチール、Bosch、ニチガス)

 武器としてのデジタルツイン――。熟練の職人技をデジタル空間で再現し、属人化した技術を誰でも使いこなせるようにする。仮想的な工場なら、製造ラインに影響を与えそうな改善策も迷いなく試せる。データ起点の効率的な配送は、コスト低減だけでなくカーボンニュートラル(炭素中立)の大潮流とも相性がよい。

 デジタルツインを活用した企業のオペレーションは、新たな商材にもなる。サービス事業の芽として育ち始めたのだ。デジタルツインが溶け込み始めた製造や小売りの現場に迫った。