デジタル庁は発足した5日後の2021年9月6日、首相官邸で開かれた「第1回デジタル社会推進会議」において、「今後のデジタル改革の進め方について」という資料のトップに「国民に対する行政サービスのデジタル化の推進」を掲げた。その中で新型コロナウイルス感染症のワクチン接種証明書(以下、証明書)のスマートフォンへの搭載などに取り組むとした。この証明書の電子交付を巡り、デジタル庁が発足前から抱える宿題の1つである「国民目線のUI・UXの改善と国民向けサービスの実現」を進めるうえでの課題を検証する。
デジタル庁は2021年内をめどに、スマホで証明書を電子申請・電子交付するシステムを稼働する予定だ。個人の接種記録はデジタル庁が運用する「ワクチン接種記録システム(VRS)」でマイナンバーとひも付けて記録されている。マイナンバーカードをスマホアプリで読み取って本人確認して申請すると、VRSの接種情報を基にスマホアプリに2次元コード付き証明書を交付するフローを想定している。
ところが、VRSへのデータ誤入力が相次ぎ、既に誤った接種情報が記録されている。入力データを精査している複数の自治体に聞くと、「全体の数%が誤っている可能性がある」との答えが共通した。
VRSに接種記録が正しく登録されていないと、アプリ上での交付を完結できないため、ワクチン接種業務を担う自治体は目下データの修正(クレンジング)の作業に四苦八苦している。VRSのデータ誤入力の要因を探ると、「国民向けサービス」の提供主体である担当府省庁と、そのシステム開発を担うデジタル庁との連携に課題が見えてくる。
データクレンジングの新機能に誤り
政府がVRSを稼働させたのは2021年4月12日である。それ以降、自治体はデータ欠損や誤データに気がつき国に指摘してきたが、VRSのデータ出力機能ではデータを検証しにくかった。そこで、デジタル庁は2021年9月22日にデータクレンジングのための新機能を実装し、自治体に定期的なデータの確認と修正を依頼した。
同機能を使うと、接種の1回目の日付と2回目の日付が逆になっているといった「確実に間違っているデータ」と、接種の1回目と2回目でワクチンの種類が異なるといった「間違っている可能性があるデータ」を自動抽出して一括出力できる。デジタル庁は「自治体担当者が定期的にデータを確認して誤りを修正することでクレンジングを進める」(担当者)とする。
ある自治体がこの新機能を試したところ、エラー率が全体の5.7%にのぼった。だが、エラーを1つずつ確認していくと、正しいデータが多数エラーと判定されていたことが分かった。新機能が「エラーと判定する条件」のうち幾つかが適切でなかったためである。例えば「1回目の接種と2回目の接種の間隔が1カ月以上空いている」場合はエラーとするが、実際には接種間隔に下限はあっても上限はない。
この自治体はこれまでも独自にエラーデータを検出してきた。精査したところ、「存在しない住民の接種記録」「2回目の接種のみが登録されていて1回目の接種が登録されていない接種記録」など、確実に誤りが判明した接種記録は全体の約1%だった。つまりこの自治体の場合、新機能が検出した誤りは多過ぎたというわけだ。
この自治体の情報システム担当者は新機能について、「条件設定を誤られると確認件数が増え、かえって自治体の作業負担が増える」と指摘する。一方で、そもそもデータが入力されていないなど、新機能を使っても検出できないエラーも少なくないとみており、「エラーをなくすには全データを1件ずつ『予診票』と照らし合わせて確認する必要がある」と話す。