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 デジタル庁が前身の内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下、IT室)から引き継いで開発・運用し、ワクチン接種を担う自治体職員に提供しているのが「ワクチン接種記録システム(VRS)」である。当初の開発メンバーは省庁や自治体、民間企業から集まり、ピーク時で最大約50人に上った。

 官民混成チームが国民目線のデジタルサービスを素早くつくるという点で、デジタル庁の「パイロットモデル」ともいえるVRS開発プロジェクト。それを河野太郎前規制改革担当相の内閣府大臣補佐官として2021年1月後半から主導したのが、小林史明衆院議員だ。

 日経クロステックは2021年10月1日、小林議員にインタビューし、自身のVRSでの経験を踏まえて、デジタル庁が今後まず取り組むべき「宿題」と、同庁がそれにどう向き合うべきかなどを聞いた。その5日後の2021年10月6日、小林議員はデジタル副大臣兼内閣府副大臣に任命された。図らずも自らが指摘した宿題に、自らが取り組むこととなった。

(聞き手は長倉 克枝=日経クロステック/日経コンピュータ)
小林 史明(こばやし・ふみあき)氏 衆院議員 デジタル副大臣兼内閣府副大臣
小林 史明(こばやし・ふみあき)氏 衆院議員 デジタル副大臣兼内閣府副大臣
1983年生まれ。上智大学理工学部化学科卒。NTTドコモ勤務を経て2012年衆院選初当選。自由民主党でデジタル社会推進本部事務総長などを務める。(撮影:日経クロステック、2021年4月撮影)
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デジタル庁がまず取り組む「宿題」を教えてください。

 それは行政機関の現場組織のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくことです。デジタル庁が社会全体をデジタル化するような誤解がありますが、デジタル庁の当初の役割は行政のDXの推進役です。国民や民間企業に行政サービスを提供するのはこれまで通り省庁と自治体であり、デジタル庁はその行政機関のDXを支えていくものです。

 企業活動でいえば、省庁や自治体はコンシューマーサービスを提供し、デジタル庁は省庁や自治体向けに法人サービスを提供するイメージです。VRSにおいても、ワクチンを接種する国民の皆さんのインターフェースは自治体や医療機関であり、VRSはその自治体や医療機関のワクチン接種に関するDXを進めた、ということになります。

VRS開発の経験を踏まえ、今後デジタル庁で取り組むべきことは何でしょうか。

 まず良いチームをつくることです。年功序列や職位に関係なく、必要な能力を持つチームをつくるとよいと考えています。チームのメンバーには3つの専門性が必要です。1つ目はもちろんデジタルに詳しいこと。

 2つ目は制度に詳しいことです。技術的に可能でも、法的に無理なことがあります。今回のVRS開発では、厚生労働省の予防接種法、個人情報保護法、マイナンバー法などが関わりました。

 3つ目は、現場の実務に精通していることです。例えば予防接種は自治体の業務なので、VRS開発に当たっては、自治体から出向してきた職員たちがものすごく活躍しました。予防接種の予診票が医療機関からどのように自治体に戻ってきて、どのように支払い手続きをするのか、どのように予防接種台帳にデータを登録しているのかなど、具体的な実務が分からないと、システムに落とし込むのに無駄な時間やコストがかかってしまいます。

 デジタル庁は今後、自治体や府省庁が共同利用する「ガバメントクラウド」を整備し、自治体システムの標準化を進めます。今の業務をそのままデジタル化するのは非効率で、業務を知ったうえで最適化して、デジタル化するほうがよい。そのためには現場の実務に精通している必要があります。

VRSのチームメンバーは何人くらいいたのでしょうか。

 最初は20人くらいでスタートしましたが、問い合わせ対応などで運用が多忙だった2021年4~5月には最大で約50人まで増えました。今は運用が落ち着いているので約10人です。府省庁や自治体、民間企業から出向してもらっています。

 府省庁は具体的に、総務省、国土交通省、環境省、経済産業省、財務省、内閣府などです。デジタル庁にそのまま残っているメンバーもいます。入省1~2年目のメンバーもいました。仕事は年次や職位も関係なく任され、民間企業からの出向者が総括取りまとめをしたり、入省3年目の職員が統計データの取りまとめを担当したりしていました。

 スタートした当初は個人情報保護委員会のメンバーに入ってもらいました。その頃に、VRS開発で問題意識を持っていた千葉県船橋市の職員にも出向してもらい、その後他の自治体からの出向者も増えました。自治体からの出向者は、VRSが運用フェーズに入ったときに、自治体からの問い合わせ対応や自治体の方たちの困りごとに早めに対応するのにとても活躍してくれました。

 デジタルの話になると「民間人採用」がよく取り上げられますが、制度や現場を知らないと(DXを)進められません。自治体の方たちには「あなたたちの力が必要だ」と伝えたいです。デジタル庁は今自治体からの出向者を募集していますが、これはVRSでの経験があったからこそです。