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Q8 デジタル庁がコンプライアンスにこだわるのはなぜ?

 行政の情報システムの発注には、「歴史的に積み上げたすごく大きな課題がある」と村井氏は話す。そもそもシステムの発注が国から「各省庁、各地方自治体それぞれにお任せ」の状態になっている。さらにそこから先も発注が多重構造になっている。国からまったく目が届かなくなっているシステムの開発や発注に多額の予算が使われる構造になっているのだ。この課題の解決もデジタル庁のミッションになる。

 一方でこれまでは各省庁や地方自治体に任されていたこうしたシステムの発注をデジタル庁でコントロールするとなれば、「泣く子も黙るぐらいの厳しさ」で臨む必要があると村井氏は考えている。だからデジタル庁自体もコンプライアンスにはこだわる必要がある。

慶応大学の村井純教授
慶応大学の村井純教授
(出所:日経クロステック、オンラインインタビューを画面キャプチャー)
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Q9 国のシステム発注や評価はデジタル庁でどう変わる?

 国民のためのシステムであるからこそ、「システムを使ってる人(国民側)のロジックで評価しなきゃいけない」と村井氏は話す。だがその一方で、行政サービス向けのシステムではこれまで、使う側の視点での評価が出来にくい構造があった。それを打破するのがデジタル庁の使命であり、民間人を幹部やスタッフとして多数登用する理由でもあると村井氏は説明する。

 民間のシステムが使いにくければユーザーが離れ、潰れるだけの話だが、行政のシステムの場合、使いにくくても適切に自然淘汰される仕組みがない。また、現場の声を拾い上げてシステムを改善する仕組みや、そのための適切な費用計上が予算構造の中に入れにくい。だから最初にめいっぱい高めの予算を確保して、「全部引き受ける」というベンダーに丸投げするしかなくなる。

 村井氏によると、デジタル庁の構造にはこれまで露見している公共システムの発注や評価、運用、予算確保の仕組みの問題点を「変えるための要素がいろいろ仕組んである」。その1つがアジャイル開発を可能にする構造。アジャイル開発ができるなら「丸投げ」の必要はなくなるし、運用で上がった不満の声を受け止、改善していくプロセスも回せるようになるはずだ。そのプロセスが回り始めたら「しめたもの」と村井氏は期待する。

Q10 村井教授、あなたはこれからデジタル庁にどう関わる?

 今後、デジタル庁とどう関わっていくかを最後に聞かれた村井氏は「今と変わらないんじゃないですか」と答えた。村井氏は政府のIT総合戦略本部のメンバーであり、内閣官房参与として首相へアドバイスする立場でもある。

 政府におけるそれ以外の役職は、政府審議会などの委員の1人として任命されている立場だ。ただし、今回のデジタル庁設立に向けた流れでは「ちょっとでしゃばり過ぎた」と話す。国のIT政策の流れを当初から知る者として「馬力を入れた」からだ。念願だった法律と組織、デジタル庁を設立できるかもしれない機会は、村井氏をして「これを逃したらもう次はないだろう」と思わしむビッグチャンスだったのだ。

 これまで産業振興やインフラ整備にフォーカスされていたIT政策の目的を、「国民1人ひとり」向けへと視点を転換、社会構造の変革に合わせて縦割りから横につながりやすいシステムに見直す方針など、村井氏は審議会でさまざまな提案をして、デジタル庁へのグランドデザインを描いてきた。

 ではいよいよデジタル庁が動き始めればどうするのか。村井氏は、「何だ、やってねぇじゃないか」「せっかく準備して協力したのに、できてねぇじゃねぇかよ」と苦言を呈する役割が「一番いいかな」と、笑う。グランドデザインを描いてきた自負があるからこそ、後見役に徹する考えのようだ。