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 「昨今大きな注目を浴びているDX(デジタルトランスフォーメーション)は新規事業の立ち上げとほぼ同じ。起業家として十数年やってきて、多くの失敗といくつかの成功を経験してきた。その経験を通じて分かったこと、皆さんが事業を立ち上げるときに失敗しないために役立つ話をしたい」――。

 2021年10月11日、オンラインで開催中の「日経クロステック EXPO 2021」の初日基調講演にシナモン代表取締役社長CEOの平野未来氏が登壇した。「起業家マインドがDXを加速する、テクノロジーで切り拓く未来の姿」と題して講演。シリアルアントレプレナー(連続起業家)として知られる同氏が、自らの失敗や成功体験、新規事業の立ち上げでカギとなるポイントなどについて解説した。

シナモン代表取締役社長CEOの平野未来氏
シナモン代表取締役社長CEOの平野未来氏
(撮影:日経クロステック)
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 平野氏は東京大学大学院在学中に、携帯電話のアプリ開発ミドルウエアを手掛けるネイキッドテクノロジーを起業。2011年に同社をミクシィに売却した後、2012年にシンガポールに本社を置くシナモンを立ち上げた。シナモンでは当初、今でいうInstagramのようなビジュアルコミュニケーションアプリの開発を手掛けた。しかし起業後3年間は失敗続きだったという。その後AI(人工知能)製品を開発して事業転換し、現在の成長につなげたという経験を持つ。

 失敗や成功を経験してきた平野氏は、新規事業を立ち上げるうえで最も重要なことの1つは、「プロブレム」と「ソリューション」がセットとして存在することだと指摘する。

 例えば配車サービス大手の米Uber Technologies(ウーバーテクノロジーズ)の事業でいえば、米国ではタクシーを呼んでもなかなか来ない、タクシーを待つのがつらいというのが「プロブレム」に当たる。この課題を同社は、アプリですぐにタクシーを呼べ、今どこにいるのかが分かるという「ソリューション」で解決した。平野氏は「プロブレムが大きければ大きいほど、その事業が大きくなる可能性がある」と説明する。

不可逆変化は「イノベーション」、可逆変化は「トレンド」

 そして立ち上げた事業を成功に導くために必要な要素として平野氏は「不可逆変化」「Why Now?」「スケーラビリティー」「PMF(Product Market Fit)」の4つを挙げた。

 1つめの不可逆変化とは、一度使うともう存在しない世界には戻れない「イノベーション」を指す。逆に、元に戻ることが可能な可逆変化は「トレンド」にすぎないと平野氏は指摘する。インターネットやスマートフォンの登場は不可逆変化の典型といえる。

 では、不可逆変化をどう作ればいいのか。その基本は「高いものが安くなる」「複雑なものがシンプルになる」といった変化を利用者にもたらすことだ。平野氏はそのほか「遅いものが早くなる」「難しいものが簡単になる」「非効率なものが効率的になる」「ダサいものがかっこよくなる」「不健康なものがヘルシーになる」「見つからないものが見つかる」「つらいものが楽になる」という全9項目を紹介した。

 2つめの「Why Now?」は、事業を立ち上げるタイミングの重要性を意味する。「タイミングが早すぎても遅すぎてもダメ」と平野氏は解説する。

 3つめの「スケーラビリティー」は、スタートアップが急成長するために必要なものだ。「大きなマーケットがあること、サプライ側のスケーラビリティーがあることが欠かせない」(平野氏)。

 4つめの「PMF(Product Market Fit)」とは、正しい市場に対して市場を満足させるプロダクトがあるかどうかということだ。提供するプロダクトに集中しすぎると、このポイントを見逃してしまいがちだという。「とにかくユーザーテストを実施し、潜在顧客に話を聞くなど、まず行動することが重要」と平野氏は指摘する。

 4つの条件を満たして事業が立ち上がったとしても、それだけでは不十分だ。テクノロジーの進化は指数関数的に進むため、ビジネスモデルはすぐに陳腐化してしまうからだ。平野氏は「事業が立ち上がった後は『Massive Transformative Purpose(野心的な変革目標)」が重要になると強調する。

 平野氏はMTPを持つことのメリットを「共通の価値観に裏打ちされた仲間意識を創出できる」ことだと説明する。例えば米Googleでいえば、「世界中の情報を整理する」が野心的な変革目標といえる。「Googleはあまりにも情報を持ちすぎているがゆえに批判を浴びている。それでも彼らはそれが圧倒的に重要だと思っているからこそ、そんな批判にはびくともしない」(同)。