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提供したい顧客体験から競合優位性を高める

 続いて平野氏は、同社が手掛けるAI事業を例に、競合優位性を作っていくことの重要性やその方法を解説した。

 企業がAIを利用する場合、コスト削減策としてAIを捉えるのではなく、成長戦略としてのAIを捉えることが重要という。そのうえで、競合優位性を高めるための「ハーベストループ」というフレームワークを提唱していると平野氏は話す。ここでハーベストループとは、蓄積された学習データを基に獲得した価値(エンドバリュー)を顧客体験として提供し、それがまた新たな学習データを生むというサイクルのことだ。

 エンドバリューには、業務効率改善やリスク削減、売り上げ向上、 UX(ユーザーエクスペリエンス)向上、R&D(研究開発)の5つがあるという。どういう顧客体験を提供したいかを考え、そこを起点に改善のループを繰り返すことで、競合に勝ち続ける仕組みを作ることにつながる。蓄積するデータが独自なものであればあるほど、他のプレーヤーには真似できない構造になる。

 さらに平野氏は、DXを進めるための「メカニズムデザイン」の重要性にも言及。中国の配車アプリ大手DiDi(滴滴出行)を例に挙げた。

 平野氏は10年ほど前に上海に行ったときに、タクシーに乗って高額な料金を要求される経験をしたという。これは、乗客とタクシードライバーのインセンティブが合っていなかったからだと指摘する。DiDiはこの課題に対し、ユーザーである乗客の満足度とドライバーのスコアリングをリンクさせることにより、両者のインセンティブを合致させるメカニズムをデザインして解決を図った。

 このメカニズムを発展させれば、最短経路探索などを行うことによって、CO2の排出を減らすことにもつながる。いわばこの改善サイクルは、「地球に優しいループ」といえる。ミレニアル世代のような若い人たちにとって、サステナビリティーに貢献しているかどうかはその企業の評価において重要な要素だ。

 平野氏は「顧客にどのような体験を提供したいのかから始まり、インセンティブをそろえるメカニズムを作り、地球に優しいループにもつなげていってほしい」と話し、講演を締めくくった。