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 「全国に1700の業務システムが存在するといわれているが、果たしてそうなのだろうか」。前田みゆき総務省地域情報化アドバイザーはこう問いかけた。

 前田氏は2021年10月19日、オンラインで開催中の「日経クロステック EXPO 2021」に登壇。「自治体システムの統一・標準化について」と題して講演した。同氏はデジタル庁の地方業務システム基盤チームも担当し、政府が進める自治体システム標準化の動向に精通している。

 「自治体で情報システムの利用が始まった当時は100種類ぐらいだったと予想できる」と前田氏はいう。全国の自治体にコンピューターが導入され、小さな自治体は地域の共同センターを利用する形でシステムの利用が進んだ。その後コンピューターの価格が下がり、共同で利用するのではなく、自治体ごとに自前で導入する動きが出始める。自治体の数と同じ1700の業務システムが存在したのは1970年後半から1990年後半を指しているという。

総務省地域情報化アドバイザーの前田みゆき氏
総務省地域情報化アドバイザーの前田みゆき氏
(撮影:日経クロステック)
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 インターネットやクラウドの時代になると、さまざまな標準化の取り組みが始まり、システムの集約が進んだ。ただしそれは限定的だったという。前田氏は「1700種類はないが、いまだに600種類存在している。標準化は目的に合わせた地域限定の部分的なものだった。また任意であり義務ではなかった。標準化に一定の成果はあったが不十分だった」と指摘する。

 しかし2020年からの新型コロナウイルス禍が1つの契機となり、自治体システムの標準化に大きな動きが出てきている。2020年9月23日の「デジタル改革関係閣僚会議」で、自治体のシステムがバラバラなことがコロナ対応での課題だったことが明らかにされたからだ。そしてその課題解決のために、国、自治体のシステムの統一を進めていくことが宣言されたのである。

 その後2021年5月12日には「デジタル改革関連法案」が成立した。「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」の中で、自治体システムの標準化について明記されたのだ。具体的には、これまで標準化は自治体やベンダーによって任意に進められてきたのに対して、今後は国が基準を作り、自治体には基準に適合した情報システムの利用が義務付けられた。またガバメントクラウドの活用を努力義務とすることが定められたことも従来との大きな違いだという。

 前田氏は、自治体システムの標準化には、多くの泥くさい作業が待っていると説明する。例えば、外字から文字情報基盤文字への同定作業はその一例だ。標準に合わせるための業務プロセス改革(BPR)の徹底も必要になる。この点について前田氏は「自治体のシステム化始まって以来の改革だ。2025年度までに全ての自治体がやり遂げる。乗り越えなければいけない課題は本当に山積みだが、未来の世代によりよいプラットフォームを残していきたい」と強調し、講演を締めくくった。