報道でたびたび取り沙汰される国内製造業の品質不正問題。とりわけ勤勉な人たちが支えるといわれる日本のものづくりの現場で、なぜ品質不正が起きてしまうのだろうか。
2021年10月20日、「日経クロステック EXPO 2021」に元芝浦工業大学教授の安岡孝司氏が登壇し、品質不正が発生する理由や背景にメスを入れた。併せて、それを踏まえた上で職場をどうマネジメントすればよいのかを解説した。安岡氏はリスクマネジメントの専門家で『企業不正の調査報告書を読む ESGの時代に生き残るガバナンスとリスクマネジメント』(日経BP)などの著書を持つ。
なぜ品質不正は発覚しにくいのか
安岡氏は、最初に品質不正が発覚しづらいメカニズムについて解説した。例えば「横領」は、他人の私利私欲に基づいた不正なので第三者が通報しやすい。一方、「品質不正」は、業務遂行や貢献のためという理由で正当化しやすいうえに、技術に関わることから不正に関与した個人が特定されやすいため、通報に至りづらいという。通報があったとしても、経営陣による黙殺や隠蔽のほか、通報者の解雇などの報復も起こりがちだ。
品質不正の背景として、「無理な目標設定や受注優先」「固定的かつ硬直的な人員配置(異動がない)」「合理化・人員削減」といった経営陣によるマネジメントの問題があると同氏は指摘する。
製造業の典型的な組織構造にも問題がある。製造部門は“稼ぎ頭”であることから、エース級の人材が集められ、かつ発言力も強い。一方、検査部門は、製造部門から「コストがかかる割に利益を出していない」と見なされがちで、発言力も弱く、人員削減の対象になりやすい。
このような組織における力関係の下では、経営が定める目標必達のため、多少の不正や不都合が起きようとも、検査部門に対し「見逃せ」という圧力を掛けて黙らせるなどして品質不正が起こる。
既に起こってしまった不正を食い止める“第2のディフェンスライン”として検査部門を監視するリスク管理部門の存在があるが、そもそも設置していない、あるいはあっても機能していなければアウトだ。