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 日経クロステック EXPO 2021の5日目の2021年10月15日には、NTT東日本ビジネス開発本部特殊局の登大遊氏が「世界に普及可能な日本発のサイバー技術の造り方」と題した講演を行った。今回、2021年10月7日に発売した『日経テクノロジー展望2022 世界を変える100の技術』(日経BP)の出版記念として登氏を招いた。

 登氏は、筑波大学の学生だった2003年に情報処理推進機構(IPA)の「未踏ソフトウェア創造事業」で、スーパークリエータ認定を受けた人物。NTT東日本のほかにも、筑波大学産学連携准教授、ソフトイーサ代表取締役、IPA産業サイバーセキュリティセンターサイバー技術研究室室長などの肩書を持つ異色のエンジニアだ。2020年4月にNTT東日本に入社するやいなや、わずか2週間で「シン・テレワークシステム」を作り上げて無償提供を開始するなど「天才プログラマー」との評価も高い。

 そんな登氏が、独自の視点からサイバー立国を提言したのが今回の講演だ。独特の言い回しに定評のある登氏だが、ここで飛び出したのが「“いんちき”な開発手法こそ、実はイノベーションにつながる」という主張だ。いったいどういう意味なのか。

 この「いんちき」とは、「既存の確立された手法ではなく、創意工夫を凝らして新しいやり方でやってみること」と登氏は定義する。あり合わせのものを手早く組み合わせ、時には「けしからん」と怒られることもあるが、この上なく安定して動いている。本来の意味における「ハック」に通じる概念といえよう。

 最近、日本でもデジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタル行政が進んでいる。とはいえ、その基盤となるOS、カーネル、クラウドシステム、インターネットシステムなどは海外製の技術やソフトウエアを使っており、国内で作ることはできていない。

 ICT技術を船に例えると、日本でも客室や廊下、レストランといったアプリケーション領域は作れるようになってきた。だが、造船所で作る船体に相当するシステムソフトウエアを作ることができず、安全保障にも影響が及ぶ問題となっていると登氏は警鐘を鳴らす。

 なぜ日本はそんな状況に陥っているのか。それは、ガバナンスやセキュリティーばかり重視することにあると登氏は指摘する。「事故が起こったらどうするのか、まずは計画を立てろとうるさい」(登氏)。