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 その一方で、このサーバールームは「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」に違反するから止めろという指示も出ていた。だが、しばらくするとこのサーバールームを使ったシステムでいくつかの重要な成果を上げた。例えば「自治体テレワーク for LGWAN」。400の市町村で3万人の公務員が、同システムを使って自宅からテレワークを行っている。「新型コロナウイルスのまん延防止にも貢献している」(登氏)。

IPAで運用しているサーバールームを紹介する登氏
IPAで運用しているサーバールームを紹介する登氏
(出所:日経クロステック、配信動画をキャプチャー)
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日本にも“シリコンバレー”はある

 登氏は指摘する。「このような『けしからん』環境や『いんちき』な手法を認めることが組織の責任だ。しかし今は、ガバナンスやセキュリティーに縛られて真逆のことをやっている」。

 「各種セキュリティー基準は、ICTの既製品を使ってなんらかのシステムを作ったり、使ったりするユーザーのためのもの。我々は既製品を使わずに一から全部作るので。このような各種セキュリティー基準は役に立たない」(登氏)。もちろん、セキュリティーに関しても自分たちで別途考えないといけないことは承知した上でだ。「既製品を使うことを前提としているので、日本からは“船”を作れる人が出てこない」(同)。

 登氏の講演スライドには、「けしからんな」と叫ぶ“ガバナンスおじさん”というイラストがたびたび登場する。どんな組織にも、様々な立場から「けしからん」と怒る人はいるはずだ。それではなぜ、登氏は「いんちき」な手法を続け、イノベーションを実現できたのか。その裏には、登氏の高い能力に気付き、リスクを承知で背中を押してきた理解者の存在が見え隠れする。

 このような経験があるからこそ、登氏の目には日本の底力が見えているようだ。「日本にはシリコンバレーがないといわれるが、民間企業や古くさい役所、大学は実は十分に豊かであり、シリコンバレーに相当する。1万人の技術者を育成できれば世界に普及する日本発のサイバー技術が生まれ、結果として日本にもグーグルやアマゾン、あるいはもっと洗練されたものができる」と締めくくった。