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 ホンダは2021年10月22日、「Hondaのデータビジネス 失敗と成功の軌跡」と題して、オンラインで開催された「日経クロステック EXPO 2021」で講演した。データサービス「Honda Drive Data Service」の概要と、その中の機能の一つとして21年8月に実装した「渋滞対策サービス」の“試行錯誤”で得た知見を紹介した。

 ホンダモビリティサービス事業本部コネクテッド事業統括部コネクテッド戦略企画開発部戦略企画課の福森譲氏が、サービスの概要を説明した。同サービスは、ホンダ車から収集した各種データを利用者が活用しやすい形にして提供するもの。例えば道路混雑状況の把握や事故多発地点の分析、災害発生時の走行可能道路の探索といった活用方法が考えられるという。

Honda Drive Data Serviceでは、取得した車両データと外部企業のサービスを組み合わせてより広範囲な課題解決を可能とすることを目的としている
Honda Drive Data Serviceでは、取得した車両データと外部企業のサービスを組み合わせてより広範囲な課題解決を可能とすることを目的としている
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 データ提供サービスの要といえる、データ収集車両の台数は年々増加している。17年に約150万台だったが、21年9月時点で約370万台超に達した。データの種類は速度や加速度、走行距離といった運転情報からABS(アンチロック・ブレーキシステム)、ESC(横滑り防止装置)、ワイパー、エンジン動作有無、周囲監視センサーによる周辺車両までの距離、位置情報など多岐にわたる。

 ホンダは外部企業と連携したサービスも開発している。例えばナイトレイが提供している生活者と旅行者の行動分析サービス「CITY INSIGHT」である。CITY INSIGHTに新サービスの「車両走行データ分析プラン」を実装した。車両情報から任意の施設を選択し、繰り返し訪れる車両の来訪回数などとナイトレイが提供するSNS解析データを連携することで、従来は難しかった来訪者のニーズを把握できるという。

 続いてホンダモビリティサービス事業本部コネクテッド事業統括部コネクテッド戦略企画開発部戦略企画課の船越允維氏が、「渋滞対策サービス」の開発段階における実証の“試行錯誤”で得た知見について紹介した。

 渋滞対策サービスは、現在「旅行時間表示サービス」として21年8月から提供している。車両から取得したデータを基に渋滞状況を可視化し、運転者に迂回を促して渋滞を緩和することを狙う。

 ただ、開発はすんなり進まなかったという。例えば宇都宮駅の東のエリアで発生する通勤渋滞を緩和するための実証実験。19年1月から6月にかけて経路利用率、区間ごとの旅行時間、出発点と利用経路、特定区間ごとの平均速度比較といった調査をした上で、そのデータから表示機の設置場所や迂回路を検討し、9月27日から渋滞緩和の対策を実施した。

 ただ1カ月実施した後に効果を検証したところ、利用者に渋滞の実態が伝わっていなかったという。渋滞が激しくなるにれて表示色を「青」「黄」「赤」と変化させていたが、表示時間のうち6割と多くの時間で「赤」となっていたことが原因だった。

 そこでホンダはこれまで「赤」だった水準を「黄」に、かなり激しい渋滞を「赤」へと変更したところ、迂回路の交通量比率が上昇したという。また、実証実験で取得した車両移動データと利用者アンケートを分析したところ、旅行時間が通常と30分以上異なり、かつ、通常経路と迂回路で旅行時間が20分以上違うと迂回行動が発生することが判明した。

 船越氏は、これらの実績を踏まえたうえで、日光市の観光渋滞を緩和する実証実験を20年3月から開始した。最大旅行時間は50%減、最大渋滞量は38%減、平均渋滞解消時刻は2時間以上早くなるなど、明確な効果が確認された上に、地図に記載のない臨時駐車場の利用が増えたという。

日光市で実施した観光渋滞解消の実証実験では、過去の結果検討を反映した表示内容の改善によって渋滞発生の半減に成功した
日光市で実施した観光渋滞解消の実証実験では、過去の結果検討を反映した表示内容の改善によって渋滞発生の半減に成功した
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