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 PwCコンサルティングの三治信一朗氏は、2021年10月15日、「AI分析で明らかになる『SDGsテック』、SDGs個別目標を達成に導く技術を特定」と題して、オンラインで開催された「日経クロステック EXPO 2021」で講演した。講演では、3500万件に及ぶ知財情報をAIで分析して導出したSDGs各目標を効率的に達成する「技術クラスター」を紹介した。なお、講演にはモデレーターとして、日経クロステック編集委員の松山貴之も参加した。今回の講演で紹介した知財分析の詳しい内容は日経BPが2022年1月に発行を予定するリポート『SDGs未来戦略』にまとめられる予定だ。

AI解析でSDGsに必要な技術を分析したPwCコンサルティングの三治信一朗氏(右)とモデレーターを務めた日経クロステック編集委員の松山貴之(左)
AI解析でSDGsに必要な技術を分析したPwCコンサルティングの三治信一朗氏(右)とモデレーターを務めた日経クロステック編集委員の松山貴之(左)
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 講演の冒頭で、「SDGsの掲げる目標はどれも実現が難しい内容で、達成するにはイノベーションが必要。そのためには技術が欠かせないが、SDGsで技術について語られることが少ない」と松山が問いかけたのを受けて、三治氏は、今回の分析の目的と価値について「SDGsで本質的に求められているのは、イノベーションのありようと、そこで変革をどのように起こしていくかを分析すること。そこからSDGsに本質的に貢献できる技術が見えてくる」と紹介した。加えて、三治氏はSDGsと技術の関係性を分析することで、次に起こりえる変革を予見できる可能性も示したいと訴求する。

「SDGsに貢献する技術」調査の概要
「SDGsに貢献する技術」調査の概要
今回の分析では、世界中で過去10年間に申請された特許情報を新規開発したAIツールで解析し、SDGs目標項目ごとに関連の深い技術要素とキーワードを抽出している。(出所:「SDGs未来戦略」(日経BP、2022年1月発行予定)
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3500万件の知財情報をAIで「泥臭く分析」

 続いて、三治氏は分析方法の概要を説明した。まず、三治氏が「広い知財の海の情報」と呼ぶ世界の特許情報10年分、およそ3500万件を対象として、それぞれの特許内容とSDGsとの関連についてAIを活用する分析ツールを用いて解析している。このAI活用分析ツールは既にあった企業間アライアンス支援ツールをベースにPwCコンサルティングがこのために開発した「インテリジェントビジネスアナリティクス」を用いている。「従来なら手作業で解析する泥臭い作業のノウハウをAIに入れることによって高速で簡便に可視化できる」(三治氏)。

 ここで抽出した技術の塊=技術クラスターのうち、特に重要なものを「SDGsテック」と名付けた。このSDGsテックに注目する理由として松山は「SDGsテックには投資と企業が多く集まっている。そのため、そこを起点としてイノベーションが起こる」と説明があった。また、三治氏からも、知財に着目すると通常は技術のみで議論してしまうが、投資情報を加味して分析するアプローチによって潜在的な顧客の投資がイノベーションを加速していく状況を把握できるメリットが紹介された。加えて、バラバラに見えがちな技術のキーワードをAIによってトレンドの強弱で解析できることで、SDGsにおける貢献度を把握できるようになるという。

「貧困の解消」に貢献するテクノロジーとは?

 続いて、SDGsが掲げるそれぞれの目標項目ごとに今回の分析で抽出されたSDGsテックと、そのSDGsテックを構成する具体的な特許技術について一部が紹介された。なお、SDGsテックの命名は、解析で入力した特許情報を基に共通する知財で使っている言葉を抽出しているため、技術寄りではない言葉になっていると松山が補足している。

目標1:貧困をなくそう
SDGsテック「銀行業務に関するデータ処理・方法」

 テクノロジーとの結びつきが見えにくいSDGs目標1だが、その記述の中に「マイクロファイナンスを含む金融サービスの管理」とある。そこから、金融サービスの充実がこの目標の達成に貢献するという見方を示した。そこから解析されたSDGsテックは「銀行業務に関するデータ処理・方法」と名付けられ、キーワードとしては「分散型金融」(DeFi)、実装技術としては「パブリック型ブロックチェーン上のスマートコントラクト」が挙がっている。「誰もがアクセスできる金融サービスが目標1の達成に貢献する」(松山編集委員)。三治氏からも「資産管理を含めてトレースできるということが重要な課題。分散型金融という高いレベルの技術で個人にひも付いた資産管理をしていくのも興味深い」という考えを示している。