SUBARU(スバル)のAI技術を「手の内化」する拠点である「SUBARU Lab」――。画像認識技術の専門家で副所長の齋藤徹氏は2021年10月21日、「日経クロステック EXPO 2021」で最新の研究開発状況を語った。
スバルは、30年までに同社の自動車がかかわる死亡交通事故をゼロにすることを目指している。達成に向けて重要な「予防安全」の施策として、25年以降に、スバルの運転支援機能「アイサイト」にAI(人工知能)を搭載しようと日夜研究開発に励む。
ソフトウエアを全て内製
アイサイトの基礎となるのが、約30年にわたり研究開発を続けてきたステレオカメラ技術である。もともとはエンジン燃焼室内の流れを計測するために開発したステレオカメラ技術を車両にも実装したことが起源という。
齋藤氏は「一時期、ステレオカメラの搭載をやめたことがある」と曲折があったと明かす。スバルが試行錯誤を経て20年にリリースしたのが「新世代アイサイト」である。
スバルのステレオカメラ技術の大きな特色は、画像処理ソフトウエアを全て内製していること。社内のエンジニアが全てプログラムを書いているという。「自分たちエンジニアが現地でテスト走行し、自分たちでデータを集めて、その場でプログラムを書いてきた」(齋藤氏)。サプライヤーに任せるメーカーが多い中、異例の開発体制といえる。
ソフトウエアの内製に加えて、アイサイトの特徴は「リアルワールド(現実世界)で徹底的に作り込んできたことだ」という。例えば雨天時の画像認識処理は難度が高い。フロントガラスに当たった水滴を捉えてしまうことがあるからだ。雨天時に走り込むことでデータを集め、左右のカメラそれぞれと、ステレオカメラによる視差マップ(Disparity Map)による認識結果を組み合わせ、最も信頼できる認識結果を判定するといった開発を続けてきた。
ただリアルワールドでの検証や評価では、結果に再現性を求めることが難しい。走行時の天候条件はさまざまであり、プログラムを修正した効果を判定しにくい。スバルは、例えば日本自動車研究所(JARI)の雨天模擬環境で試験を実施し、天候条件をなるべく一定にしながら定量評価しているという。