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 東芝 執行役上席常務/最高デジタル責任者 東芝デジタルソリューションズ 取締役社長の島田太郎氏は2021年10月18日、オンラインで開催中の「日経クロステックEXPO 2021」に登壇。「未来を拓く、Quantum Transformation ~東芝の量子技術が目指す世界とは~」と題し、20年以上にわたって量子技術の研究を進め、実用化を推進してきた東芝の取り組みを紹介した。

東芝 執行役上席常務/最高デジタル責任者 東芝デジタルソリューションズ 取締役社長の島田太郎氏
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東芝 執行役上席常務/最高デジタル責任者 東芝デジタルソリューションズ 取締役社長の島田太郎氏
(出所:日経クロステック、配信動画をキャプチャー)

 島田氏は、パソコンやスマートフォン(スマホ)からデータを集める「サイバー・ツー・サイバー」のプラットフォーマーが大成功した過去10年間の時代から、これからはフィジカルとサイバーが融合した、新たなプラットフォームの時代が来ると語る。島田氏はこれを「DX(デジタルトランスフォーメーション)2.0」と呼ぶ。

 そしてこのDX2.0の先に、「QX(量子トランスフォーメーション)」と呼ぶ本質的な変化が訪れるとする。QXをけん引するのは、膨大なデータから動的な問題を解くことができる量子コンピューターだ。「一度解いたら答えが変わらない静的な問題に対し、動的な問題は瞬間ごとに答えが変わっていく。金融取引や電力の最適配分などが代表例だ」(島田氏)。

島田氏が語る量子コンピューターの強みは、動的な問題を瞬時に解けることという
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島田氏が語る量子コンピューターの強みは、動的な問題を瞬時に解けることという
(出所:日経クロステック、配信動画をキャプチャー)

 量子コンピューターで扱うような膨大なデータをどのように運ぶのか。島田氏は最終的に、量子技術を活用した新たなネットワークやソフトウエアが必要になると説く。このような変化によって、GAFAを始めとしたプラットフォーマーが席巻した時代から、新たなプレーヤーが活躍できる大きなチャンスが訪れるとする。

量子暗号通信は2030年に30億ドル市場へ

 量子技術を活用した新たなネットワークの第一歩として島田氏が紹介したのが、量子暗号通信である。量子暗号通信とは、光ファイバーで結んだ拠点間において、光子に暗号鍵情報を載せて送受信する仕組み。量子力学的な特性を用いて盗聴者による盗み見を確実に検知できるため、量子時代の新たな暗号技術として世界で実証が進みつつある。

東芝は2030年に量子暗号通信市場の25%を獲得したいという目標を掲げる
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東芝は2030年に量子暗号通信市場の25%を獲得したいという目標を掲げる
(出所:日経クロステック、配信動画をキャプチャー)

 東芝は2020年10月に事業化を発表。世界最高の鍵配送速度や世界最長の鍵配送距離を誇るという。島田氏は量子暗号通信の市場について、2030年には中国も含めて世界で約30億ドル(約3300億円)市場になると予測。「そのうちの25%ぐらいをターゲットにビジネスを展開したい」(同氏)とする。

 東芝は、量子暗号通信のビジネスについて、機器による箱売りビジネスではなくサービスとして展開する考えという。「過去には機器が圧倒的な差別化を生んでいた。しかし大切なのは機器を使ってデータを送るためのソフトウエアやアプリケーションとの連携レイヤーだ。我々はこのようなソフトウエアを含めて開発を進めている」(島田氏)。

 例えば、量子暗号通信のAPI(Application Programming Interface)と外部のソフトウエアを連携することで、ビデオ会議サービス「Zoom」を絶対に盗聴できないようにすることが可能になると島田氏は続ける。

オープンな量子暗号通信プラットフォームを構築し、民間企業や政府機関、学術機関が利用できるようにしたいという
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オープンな量子暗号通信プラットフォームを構築し、民間企業や政府機関、学術機関が利用できるようにしたいという
(出所:日経クロステック、配信動画をキャプチャー)

 そんな量子暗号通信は現在、中国がスピードと規模で他国を圧倒している。島田氏は、日本も負けてはいられないとして、同社を中心に続々と実証を進めている様子を紹介した。具体的には、2020年度に省庁間の量子暗号通信に成功したという。次のステップとして島田氏は「東京地区の使いたい人が、量子暗号通信を使えるようにプラットフォーム化したい」という。銀行間の相互接続や日銀と銀行間の取引を専用線から、量子暗号通信のプラットフォームを活用することで「コストを下げつつ、安全性を高めることが可能になる」と島田氏は語った。