武蔵大学の庄司昌彦社会学部教授は2021年10月20日、「自治体DXの要点と展望 人にやさしいデジタル改革とデータ活用のあり方」と題してオンラインで開催中の「日経クロステックEXPO 2021」で講演した。政府が20年以上デジタル改革に取り組んできたにもかかわらず失敗し続けてきた経緯を振り返った上で、デジタル改革を進めるには、まず行政における仕事の仕方を変える「アナログ改革」こそが必要だと強調した。
庄司教授は情報社会学と情報通信政策が専門で、総務省の「自治体システム等標準化検討会」と「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」でそれぞれ座長を務める。政府の「デジタル・ガバメント閣僚会議」の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」のメンバーでもある。また都道府県や地方自治体の会議メンバーやアドバイザーなどとして、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進に携わっている。
まず庄司教授はこれまでの政府のデジタル政策を振り返った。政府は2001年の「e-Japan重点計画」や2013年の「世界最先端IT国家創造宣言」で、行政手続きの電子化や横断的な業務改革を試みてきた。2021年9月に発足したデジタル庁がやろうとしていることは、すでに20年以上前から取り組もうとしてきたことである。しかしそれらは実現しなかったというのが現状だ。庄司教授は「自分たちで取り組むとしたことがなぜ実現しなかったのか。何度も失敗してきている。この反省をした上で次に進むべきだ」と指摘した。
社会全体のデジタル化を実現する上で、ボトルネックとなっているのが行政のデジタル化である。政府はこれまでの失敗も踏まえた上でこの課題を解決すべく、行政デジタル化を推進している。デジタル庁が中心となってシステム整備などを進めている。
政府は2020年12月に「デジタル・ガバメント実行計画」を決定し、国と地方の行政デジタル化推進のため、11の個別目標を定めた。例えば、あらゆる行政手続きをスマートフォンから簡単にできる「デジタル・ファースト」、いったん行政機関で情報を入力したら同じ作業を繰り返すことなく手続きが済ませられる「ワンスオンリー」、行政事務を抜本的に見直し効率化する「業務改革(BPR)」などである。
自分たちでデジタル化をデザインする
これらの目標達成に向け、政府は2021年1月から2026年3月までを対象期間とする「自治体DX推進計画」、具体的に自治体がDXに取り組むための「自治体DX推進手順書」などを整備してきた。その上で、自治体はデジタル庁の基本方針に基づいて、2025年度末までに主要17業務のシステムを統一・標準化する計画だ。
では、自治体側の反応はどうか。「業務量が増えると思われて、現場(の自治体職員ら)からは反応が悪い」と庄司教授は言う。実際、例えば行政手続きをデジタル化しても職員の作業には紙を使うなど、仕事のプロセスに従来のアナログの手続きが残っていると、業務量が増えかねないという問題がある。
これに対して庄司教授は、組織横断でのルール見直しの重要性を指摘。「(行政の職員が)自分たちでデジタル化をデザインする必要がある」という。具体的には、これまでの仕事のやり方を見直し、デジタルに合ったやり方に変えていく作業が求められる。庄司教授はこれを「アナログ改革」と呼ぶ。そのために必要なのは「自分たちの組織の課題を自分たちで見つけ、デジタルに沿ったやり方に自ら変えていける人材だ」(同)と強調した。