「中国が世界に先駆けて『ゼロカーボン』をコミットした。これに世界が驚き、『ゼロカーボノミクス(カーボンニュートラルを巡る経済競争) )』に火が付いた」。このように話し始めたのは日本総合研究所のフェロー井熊均氏だ。2021年10月18日、日経クロステック EXPO 2021で「脱炭素を巡る国際経済競争『ゼロカーボノミクス』が始まった」と題する講演を行った。
電力自由化や再生可能エネルギー導入に向けた各種政策を立案・提言するなどエネルギーの技術や国際環境に精通する井熊氏。ゼロカーボン(脱炭素、カーボンニュートラル)を巡る世界的な潮流「ゼロカーボノミクス」がどのようにして起こり、世界がどこへ向かおうとしているのか? そして日本は? この講演ではそうした一連の動きを解説した。
世界を驚かせた中国のゼロカーボン宣言
2020年10月の菅義偉首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、国内でも脱炭素化、ゼロカーボンに関する話題が急激に熱を帯びている。井熊氏はまず、ゼロカーボンを巡る現在の世界的な激流の起点は、2020年9月22日の国連総会の一般討論演説だったと指摘する。
この場で中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が、ビデオ演説を通じて「CO2(二酸化炭素)排出量を2030年までに減少へと転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにする『カーボンニュートラル』を目指す」と宣言したからだ。中国はそれまで、経済成長を妨げるとしてCO2排出量の削減に消極的な態度をとっていただけに、この演説は世界に驚きをもたらした。これに対抗するような形で前述の通り2020年10月に日本もゼロカーボンを目指すと明言した。
アジアで相次いだゼロカーボン宣言は欧米を動かした。気候変動対策で世界をリードしてきたと自負する欧州連合(EU)は2020年12月11日の欧州理事会(EU首脳会議)で、コロナ禍で後退した景気の回復を目的とした7500億ユーロ(約100兆円)規模の復興基金の運用開始を承認した。このうち3割以上はCO2削減、ゼロカーボン関連に費やされる。
2021年1月に発足した米バイデン政権も就任当初からゼロカーボン推進にアクセルを踏んだ。前任のトランプ氏が離脱を決めた地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定に復帰する大統領令へ就任当日にサインしたのを皮切りに、新型コロナ対策など追加経済支援策に1.9兆ドル(約217兆円)、さらに8年間で2.3兆ドル(約263兆円)規模のインフラ整備を中核とする経済対策を明言した。2021年4月には気候変動サミットを主催。2030年までに2005年比50~52%のCO2削減を表明した。その後も2030年までに新車販売の50%をEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)、PHV(プラグインハイブリッド車)に転換し、発電量の80%を、CO2排出を抑えたクリーンエネルギーに移行する方針を打ち立てた。トランプ政権とは真逆のゼロカーボンへの積極的な姿勢を矢継ぎ早に打ち出しているのだ。