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巨大なゼロカーボン市場と米中対立

 世界はなぜ、ゼロカーボン推進にこだわるのだろうか?

世界各国がゼロカーボンを推進する理由
世界各国がゼロカーボンを推進する理由
市場の巨大さ、技術の範囲の広さ、先端・重要技術の多さ、中国の競争力の4つの要素を井熊氏は挙げた(出所:井熊氏の講演スライド)
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 井熊氏はこの理由としてまずゼロカーボン市場の巨大さを挙げた。脱炭素に向けた投資や技術開発がポストコロナにおける経済復興の中心であり、千兆円単位の市場規模が見込まれる。

 経済的な成長を続けながらゼロカーボンを目指すには、ありとあらゆる分野での技術革新が必要となる。エネルギー分野はもちろんだが、石油に依存する自動車など交通産業、化学産業、代替燃料の開発が期待されるバイオ関連にも大きく影響する。再生可能エネルギーの活用などエネルギー効率のいいスマートビルディングやスマートシティーの登場は、不動産や建築にも影響を及ぼすはず。ゼロカーボンの影響範囲は多岐にわたる。

 しかもこれらゼロカーボンを支える技術分野には最先端、最重要なものが数多く含まれると井熊氏は指摘する。だからこそ、「乗り遅れるとポストコロナでの成長から取り残されかねない」と世界が危機感を抱き、こぞってこの流れに乗ろうとしているというのだ。

 井熊氏はCO2削減、ゼロカーボンを巡る世界全体を巻き込んだ経済競争を「ゼロカーボノミクス」と呼ぶ。すでに気候変動対策の枠を超え、すべての国のこれからの経済競争に直結しているからだ。そして中国が世界に先駆けてゼロカーボンを宣言したのは、ゼロカーボノミクスにおいて中国が備える高い競争力への自信の表れだと分析する。

 5年前の2016年9月には、パリ協定の米中同時批准という快挙があった。レガシーを残したいオバマ氏率いる米国と、大国であることを誇示したい中国の思惑が一致したからだ。ところが中国に危機感を抱くトランプ氏は大統領就任後に対中経済制裁を発動し、パリ協定も破棄するに至った。

 この流れを中国側からみると、米中関係への期待は失われ、米中の経済規模逆転へのリアリティーを増す結果になった。「米国と並ぶ」から「米国を抜く」への転換だ。2020年9月の習国家主席の宣言は、直後に控えていた米大統領選挙の結果を見越し、ピンポイントのタイミングで、米国に先んじ、差を広げる狙いだったと井熊氏は見る。バイデン氏へと政権が移れば、「米国は再びゼロカーボンへ舵(かじ)を切るはず」と中国が考え、それに対抗するカードをいち早く切ったのだというのが井熊氏の見立てだ。