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 さらに先の「ゼロカーボン・テクノ曼荼羅(まんだら)」において中国が優位を築いていない唯一の分野、「バイオ」に関しては、中国を逆転するような戦略を仕掛けるというのが井熊氏の読みだ。農業や航空機分野での競争力をさらに高めることに加え、CO2を回収し、貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)とバイオマスエネルギーを組み合わせた「BECCS」を核としたカーボンネガティブ市場での優位を構築する。

では日本はどうすべきか?

 日本政府はカーボンニュートラル宣言以降、経産省を中心にゼロカーボン市場での成長戦略を描くと同時に、政府も2兆円の資金を投入すると表明している。しかし、この額は米欧が示した投資額と2桁も違う。

日本が進むべき道
日本が進むべき道
弱者の戦略でスタートし、日本の強みを生かした方策を採るべきだとする。(出所:井熊氏の講演スライド)
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 井熊氏はしかし「日本の位置付けを冷静に考えるべきだ」と説く。2030年において日本の国内総生産(GDP)は米中の合計額のわずか10分の1程度になると予測されている。そういう状況を踏まえて日本の強みに徹底的に注力した戦略を立てるべきだというのが井熊氏の意見だ。

 たとえば日本で流通している太陽光発電パネルは半分くらいが中国製ではあるが、素材や部品のレベルでは日本は「けっこう競争力がある」(井熊氏)。同様に、モーターや、電力分野で使うパワー半導体では高いシェアを誇っている。細かいところに目を向けるとオペレーションとメンテナンスに対する信頼性や、要素技術といった部分でまだまだ競争力を保っているのだという。

 もう1つ井熊氏が強調するのは、トヨタ自動車の存在だ。ゼロカーボン市場における技術や開発力においてトヨタは非常に強く、井熊氏は「世界でも圧倒的な競争力を持つと私は思っている」と評価する。さらにトヨタは独自のスマートシティー「Woven Cityプロジェクト」を推し進めるなど、スマートシティー分野への進出も積極的であるところも見逃せない。EX(エネルギートランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)が融合し、付加価値を生むのがスマートシティーであり、同プロジェクトは「世界の最先端を行っている」(井熊氏)。

 ゼロカーボン市場を巡る国際競争は、今後、何十年にも渡って国の盛衰を決める極めて重要なマーケットであると改めて強調して井熊氏はこの講演を結んだ。井熊氏は11月3日発売の書籍『脱炭素で変わる世界経済 ゼロカーボノミクス』(日経BP)でより詳細な分析をまとめる予定だ。

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