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 2011年にドイツ政府が技術政策として「インダストリー4.0(Industry 4.0)」を提唱してから10年。日本の製造業も、このキーワードを意識しつつ、生産の高度化に取り組んできた。果たして10年前に思い描いたような形で発展を遂げられたのか。次世代のものづくりに向けて、様々な企業の連携を目指すインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)の西岡靖之理事長(法政大学デザイン工学部教授)に聞いた。(聞き手は岩野 恵、斉藤 壮司)

IVIの西岡靖之理事長
IVIの西岡靖之理事長
(写真:加藤 康)
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インダストリー4.0の提唱から10年が経過しました。成果はあったのでしょうか。

 ものづくり立国を支えてきた製造業は、ある時期から成長産業とみなされなくなり、世間からの注目度が低かった。それが「インダストリー4.0」という言葉の登場で脚光を浴び、デジタル化に向けた投資が盛んになったという点では成果があった。ただ、このキーワードは、最近は耳にする機会が減った。今は代わりに「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が注目されている。こうしたキーワードに振り回されることなく、その背後にある大きな流れを理解し、地に足のついた取り組みの継続が重要だ。

 製造現場のデジタル化の進展に関して、IoT(Internet of Things)というキーワードは、時代を読み解く上で重要である。10年前は「小さな丸は誤植じゃないか」なんて言われたIoTが成果を上げている。IoTによって、現場の人が自ら現場のデータを取得し、加工できるようになった。従来は現場のデータを得るのに多くの労力が必要だった。それが今ではソフトウエアやセンサーの価格が下がり、現場主導でデジタル化ができるようになっている。新型コロナウイルスの影響で先行きが不透明であり、多くの企業が投資を控えている中で、自分たちでデジタル化しようとするDIY的な流れが加速しつつある。

現場主導のデジタル化の効果はどのように表れていますか。

 一例として、ある自動車部品の中小企業ではIoTで自らデータを収集し、そこで得られた知見を基に、経営を健全化できた。中小企業が大企業から受注する部品には、その製造コストに見合わないものが多いのが現実である。昨今の品質不正問題の背後には、発注側が検査項目を必要以上に厳しくしたことなどが挙げられており、それをデータによって示すことで発注側も受注側である中小企業もWin-Winの関係となるようしぶとく交渉した。

 ものづくりの現場にあるデータは、その使い方次第で、稼ぐ力につながる。その中小企業はIoTで検査にかかる人件費や工数、あるいは検査しない場合の歩留まりなどのデータを取得した。データに基づき、「この部品でうちは利益が出ないどころか1個当たりこれだけの損失です」と提示し、結果としてその部品の受注を失った。売上高は2~3割減少したものの、より付加価値の高い加工に作業者を配置転換し、逆に利益が出やすくなったという。

 現在、発注側であるメーカーは大企業である場合が多く、サプライヤーとの間の交渉は対等である場合は少ない。メーカー側の都合が常に優先されることでサプライヤーが疲弊し、場合によっては廃業に追い込まれる場合もある。こうした中で、データは両者の関係をより健全とするための切り口として有効だ。メーカー側も生産計画や在庫のデータを事前に中小企業に開示するなど、データを核とした大胆な連携を模索してはどうか。