「インダストリー4.0(Industry 4.0)」というキーワードが2011年に登場してから、今年で10年の節目になる。インダストリー4.0は、大まかには「製造業のデジタル化を進めて生産情報を可視化し、新しいビジネスモデルにつなげよう」というコンセプトだ。ITを駆使して高い生産性を実現しつつ、多様な市場ニーズにきめ細かく応えられる。そんなスマート工場の目指すべき理想を表している(図1)。
もちろん、そうしたキーワードが登場する以前から、製造業の現場はデジタル技術の活用を進めてきた。しかし、その歩みはいま、踊り場に立っている。21年10月に日経ものづくりが実施したアンケート調査によると、「日本のスマート工場は世界よりも遅れている」との回答が、なんと6年前よりも増えている。
10年前に提唱されたインダストリー4.0が掲げた理想を振り返りながら、日本のスマート工場が直面する課題を考えてみる。
新たな「産業革命」への期待
もともと、インダストリー4.0はドイツ政府が11年に打ち出した産業政策で、「第4次産業革命」を意味する*1。例えば、掲げられた理想に「マスカスタマイゼーション」の実現がある。大量生産によるコストメリットを維持しながら多品種少量生産も同時に達成するという将来像だ。それまで、大量生産と多品種少量生産は、両立が難しいとされてきた。実現すれば、より多くの顧客の需要に応える、より「稼げる工場」を目指せる。
その中核技術の1つが「デジタルツイン(Digital Twin)」(図2)。生産現場からデータをくまなく収集し、コンピュータ上で仮想的に状況を再現する。膨大なデータを基に課題を分析して、素早い改善につなげる。生産ラインの動きをあらかじめシミュレーションしたり、故障の事前予測が可能になったりする。
そうしたデータ収集の基礎的な機能を果たすのが「産業向けIoT基盤」である。商機と見た複数の企業や団体が、関連する製品やサービスを提供している。また、イーサネットにリアルタイム性を付加する「TSN(Time Sensitive Networking)」*2や、産業ネットワークのデータ交換仕様「OPC UA(OPC Unified Architecture)」*3など、「つながる工場」を下支えする技術が着実に広がりつつある。
イーサネットにリアルタイム性を付加する拡張規格。データ伝送の遅延を防ぐ仕組みを備える。IEEE(米電気電子技術者協会)の作業部会「IEEE 802.1」で策定が進む。
産業ネットワークのデータ交換仕様。2008年に非営利団体のOPC Foundationが発表し、「IEC62541」として国際標準化された。Industry 4.0で「通信の推奨技術」に定められ、欧州を中心にスマート工場の標準技術として普及が始まっている。