デジタル改革を47倍速で進化させる方法、デジタル庁の体制に潜む工夫、縦割り組織とタコつぼ型社会の脱し方――。日経BPが2021年10月12日に開催した「デジタル立国ニッポン戦略会議」において、5人のキーパーソンが議論を交わした。テーマはデジタル技術によって人々の暮らしをもっと豊かで便利にする、いわゆる「デジタル立国」の達成だ。
5人とは東京都の宮坂学副知事、デジタル庁の津脇慈子企画官、NECの遠藤信博会長、デロイト トーマツ グループの松江英夫CSO(戦略担当執行役)、慶応義塾大学の村井純教授だ。村井教授は討論の司会を務めた。まず登壇者がそれぞれの立場から意見を述べ、その後にパネルディスカッションをした。
前編 キーパーソン5人が明かす、日本流DX「デジタル道」の極め方デジタル立国を成し遂げるには個別の企業や組織の視点ではなく、社会全体の視点から施策を考える必要がある、つまり全体最適の視点が欠かせないとの意見が複数の登壇者から出た。村井教授はこの点について「理屈としては魅力的だ」とした上で「これまで縦で動いてきたことは必然だとも感じる」とし、個別最適の取り組みにも一定の合理性があったと指摘。「全体でコンセンサスを取ることが本当に可能なのか」と問題提起した。
全体最適には「視座を上げる」
NECの遠藤会長は「確かにとても難しい。組織をつくるとその中で最適化が始まるのは必然だ」と述べた。一方で「各部署で最適化が進んでいるということは、会社全体を見るといろいろな取り組みをしていることになる。それらのいくつかをつなげると、それぞれの部署(個別の取り組み)では出せなかった高い価値を生み出せる」と話した。
自社での議論の際も、組織の「壁を越えてほしい」と伝えると、「そんなに簡単ではない」と言われるケースがあるという。そんな時には「視座を上げてくれと言う」(遠藤会長)。部署の責任者が自らの部署のことだけを考えるのではなく、会社全体の視点で判断できれば、全体最適の動きにつながる。「全社にとって良いことが、自らの部署にとっても良いことだと考えられるようになり、納得感を得やすい」(同)。
村井教授は「視座を上げると、全体の中で(自らの部署などが)どういう価値を持つかを考えることにつながる」と応じた。
デロイトの松江CSOも「確かに、今まで通り(の思考や行動)では全体最適は成り立ちにくい」とし、全体最適の視点で物事を実行していくには「組織トップの求心力と、現場がメリットを実感すること。この両輪を回すことが大切だ」(松江CSO)と説明した。その前提として「何のためにやるかという目的意識が欠かせない」と語った。
都道府県が連携すれば「47倍速」
次に村井教授は「地方が本当に元気になるにはどうすればいいか」と投げかけた。デジタル立国を果たすには都心部だけでなく、地方都市を含む日本全体で臨むことが欠かせないからだ。