データは石油ではなく、新たな「土壌」だ。デジタル社会をつくる上で様々なサービスを生み出し、育てるための基盤となる――。自治体や企業のデータ活用を支援する一般社団法人リンクデータの下山紗代子代表理事は、日経BPが2021年10月に開催した「デジタル立国ニッポン戦略会議」に登壇し、このように述べた。
下山氏はリンクデータの代表理事と兼務する形でデジタル庁のデータスペシャリストを務める。そのほかにもデータ活用を支援するIT企業インフォ・ラウンジの取締役、武蔵大学の非常勤講師、IT活用により社会課題の解決を目指す一般社団法人Code for Japanのフェローなどの肩書を持ち、様々な立場から、国や自治体、企業におけるデータ活用の促進に向けて活動している。
データが持つ社会的価値を天然資源の石油に例えて、「Data is the new oil (データは新たな石油)」と言われることがある。この見方について、下山氏は「データは石油のように高い価値を持つ」と同意しつつも、「油田のように大企業に独占されてしまったり、石油精製のように複雑な工程を経ないと活用できなかったりする」と続けた。プラス面だけでなく課題についても共通点があるというわけだ。
オープンデータとは「皆さんにデータを返すことだ」
2013年の主要8カ国(G8)首脳会議で、税金を使ってつくられた公的機関のデータは公共材として原則的に公開すべきであるという「Open By Default」の考え方が国際的に合意された。このような流れに沿って世界各都市でデータ公開が進んでいるといい、スペイン・バルセロナ市の担当者の発言を引用した。「オープンデータとは、もともと皆さんのものだったデータを(皆さんに)返すことだと考えている」というコメントだ。
オープンデータを推進する意義と得られるメリットについて、下山氏は3点を挙げた。「国民参加・官民協働の推進を通じた諸課題の解決、経済活性化」、「行政の高度化・効率化」、「透明性・信頼の向上」である。
1つ目の「国民参加・官民協働の推進を通じた諸課題の解決、経済活性化」について、下山氏は「そもそもなぜ官民協働が必要かというと、これまで通りのサービスを行政が提供するのが今後難しくなるからだ」と述べた。
現在は住民が支払った税金を原資に、行政が住民サービスを提供している。だが今後は人口減少の影響で、地域によっては税収が減り、同様のサービス提供が難しくなる。その際に「企業や研究機関が『シビックテック』で協力していくことが欠かせない」(下山氏)。シビックテックとは市民と行政が協力し、テクノロジー活用によって社会課題を解決したり、住民サービスを向上させたりする動きを指す。
税収が減る状況下では「行政は行政にしかできないことに集中し、民間ができることは民間に任せるべきだ」(下山氏)。民間に協力を求める際に重要なのがオープンデータだという。「互いに何も知らない状態から官民で顔を合わせて打ち合わせしようとすると時間がかかるが、あらかじめデータを開放していれば民間が進んで手伝える」(同)。