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 日本の経済成長には地方創生が欠かせず、その有効な施策の1つがデジタル活用だ。となれば、地方で活躍するデジタル人材が必要になってくる。地方都市でデジタル人材を育成するにはどうすべきか、育った人材に各地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)を担ってもらうにはどんな仕組みが必要なのか――。日経BPが2021年10月に開催した「デジタル立国ニッポン戦略会議」において、様々な立場から地域のDXに取り組む3人が議論した。

 3人とは経済産業省地域経済産業グループ 地域企業高度化推進課の荒木太郎課長、東北大学の青木孝文理事・副学長(企画戦略総括・プロボスト)最高デジタル責任者(CDO)、デロイト トーマツ グループの松江英夫CSO(戦略担当執行役)だ。

 松江CSOは地方におけるデジタル人材の育成と雇用創出、デジタル活用促進に向けた考え方として「リージョナル・トランスフォーメーション(RX)」という概念を紹介した。地方のDXを推し進めるにはデジタル人材の育成はもちろん、育った人材が活躍できる場としての雇用創出が必要だという。人材が集まり、雇用が生まれ、DXが進むことによって地域の利便性や魅力が高まり、さらに人が集まるという好循環につながる。

 RXとは「地域の内外問わず人・もの・情報を幅広くつなげて、地域がもともと持つ力を高めるという考え方だ」(松江CSO)。コロナ禍で人の価値観や行動様式が変化し、デジタルによって時間や場所の制約から解放されたことが背景にあるという。「東京に転入する人よりも地方に転出する人の方が多いという歴史上まれなことが起きた。地方の価値が見直されている今こそ、RXで地方の価値を高めるべきだ」(同)。

競争は激化しているが、チャンスでもある

 松江CSOはパネルディスカッションでRXを議論するに当たって、3つのテーマを掲げた。「なぜいまRXなのか」「RXを支えるデジタル人材像と、その人材を増やすためには」「RXのための新たな産学官連携の形とは」である。

 1つ目の「なぜいまRXなのか」に関連して経産省の荒木課長は、「スマートかつ強靱(きょうじん)な地域経済社会の実現に向けて、いま世の中で起きている変化をチャンスと捉え、それをどう生かすか、いま何をすべきかを有識者の方などと議論する機会があった」と話した。

経済産業省地域経済産業グループ 地域企業高度化推進課の荒木太郎課長
経済産業省地域経済産業グループ 地域企業高度化推進課の荒木太郎課長
(写真:村田 和聡)
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 地域の中堅中小企業にも話を聞いたところ、「デジタルを使って業務改革をしていると答えた企業が半分、ビジネスモデル変革にまで取り組んでいるという企業は1割にとどまった」(荒木課長)という。そのような現状を踏まえ、地域経済をけん引する「中堅中小企業のデジタル化とDXを積極的に支援していきたいと考えた」(同)。

 RXを進める過程で地域企業に取り組んでほしいこととして、荒木課長は「自社の強みをもう一度見直したうえで、他社と共通化できるところはしてもらい、自社の強みに思いっきり力を注いでほしい。その結果として新しい商品ができ、新しい顧客、新しい価値を見付けられるのがRXだと考えている」と述べた。

 東北大学の青木副学長は「なぜ地域(でデジタル活用が必要)なのかということで言うと、例えば東日本大震災で被災した東北の沿岸部などは、働き手がほぼゼロになり限界が来ている。事業を続けること自体が難しく、何らか対策を考える必要がある」と話した。

東北大学の青木孝文理事・副学長(企画戦略総括・プロボスト)最高デジタル責任者(CDO)
東北大学の青木孝文理事・副学長(企画戦略総括・プロボスト)最高デジタル責任者(CDO)
(写真:村田 和聡)
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 青木副学長は宮城県石巻市における水産加工業者の取り組みを紹介した。「ボイルしたホタテの汚れを取る作業が必要だが、人手がなく、コロナ禍で海外からの実習生も受け入れられない」(同)。そこでAI(人工知能)やDXでの解決を模索し、自動化に成功したという。

 青木副学長は「SIer(システム構築事業者)に頼んでロボットを使うとなると、払えない(ほどの高)額になってしまう。そうではなく、水産加工業の方が自分達でITを学んで取り組んだのが優れた点だ」と説明し、「このケースのように、働き手がいないという状況に対して地域の現場で考えていくべきフェーズを迎えている」と続けた。