デジタル人材を2024年に15万人育成し、世界のDX(デジタルトランスフォーメーション)需要に応える――。ベトナムIT最大手FPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長はこのほど来日し、技術者の増員計画を明かした。世界でデジタル化が急速に進む中、デジタル人材不足の解消を通じて事業拡大を狙う。計画の詳細と達成に向けた秘策、日越連携への思いについて聞いた。
(聞き手=大和田 尚孝 日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ)
FPTコーポレーション傘下のFPTソフトウェアは日本を含む世界の企業向けにITサービス事業を展開しています。新型コロナウイルスの影響を少なからず受けたと思いますが、2021年12月期の業績見通しについて教えてください。
グローバルでは売上高6億3000万ドル(約710億円、1ドル113円換算、以下同)で、前年比23%の増収を達成できそうです。地域別で見ると特に米国でのビジネスは成長幅が大きく、53%の増収を見込んでいます。
分野別だとDX分野が急成長しており、事業規模は前年比79%増の2億4700万ドル(約280億円)を見込みます。
日本事業の2021年12月期における売上高は2億4600万ドル(約280億円)の見通しです。第1四半期は新型コロナの影響で伸び悩みましたが、第2四半期以降は成長に転じました。DX分野は40%の増収が見込めそうです。クラウド、コネクテッドカー、ローコード開発、AI、データ分析、IoT、モバイルといった領域の案件が好調です。
有名ビールなぞらえ「333」計画に挑む
2022年度の見通しは。
さらなる伸長を見込んでいます。具体的にはグローバルで25%成長を目標としています。その先、2023年度は(2021年度比6割増となる)売上高10億ドル(1130億円)の達成を目指しています。
FPTといえばオフショア開発が主力かと思いますが、開発受託を増やすイメージですか。
成長戦略として、コンサルティングから運用オペレーションまで全工程を対象とした包括的なサービス提供に力を入れます。注力する業種は金融、製造、小売り、ヘルスケア、石油やガスなどのエネルギーです。これらの業界の企業にクラウドやAI、データアナリティクスといったエンタープライズのソリューションを提供します。
日本においては2022年に3億ドルの売り上げを達成したいと考えています。さらに2022年度から3年連続で3割成長を目指します。ベトナムで有名なビール「333(バーバーバー)」になぞらえ、3億ドル、3年連続で3割成長。3を3つそろえました。
2020年春以降、日本でもDXの機運が高まっています。ビン会長は日本企業の経営者と交流があると思いますが、どう感じていますか。
コロナ禍で多くの企業が「DXをしないとまずい」と気付いたと感じます。今回私は2年ぶりに来日しましたが、それまでの間は、なかなか来日できなかった分、日本の経営者の方とテレビ会議などを頻繁にしました。意思疎通の回数はむしろ増えました。
急成長を遂げる金融機関の経営トップ、世界に打って出るアパレルメーカーの経営者など、特にDXに積極的です。日本の経営者と話していて、意識の変化を強く感じます。
スピードへの即応が強み
日本企業の経営者はFPTにどんな期待をしていますか。
スピードへの対応です。要求に即応する、つまり素早く取り組むということはもちろんですが、それだけではありません。将来へのスピード、つまりDXプロジェクトの体制拡大への迅速な対応を求められています。
ここは当社の得意領域です。FPTはデジタルスキルを持つ人材を多数育成しており、優秀な人材を素早くアサインできます。例えば、ある日本企業向けの案件では1年以内に1500人を動員しました。この強みを生かしてほしいと、日本の経営者から期待されていると感じます。
FPTにおけるデジタル人材の育成計画について教えてください。
FPTはデジタル人材を育成するためにベトナムで「FPT大学」を10年以上にわたり運営しています。FPT大学は学生数を2年で倍増させるという高い目標を設定しています。ここ3年間は連続して目標を達成しています。大学の学生数は現在5万2000人まで増え、キャンパスはハノイやダナンなど5カ所に広がりました。
キャンパス1カ所当たり1万人ほどの学生がいる計算です。半年ごとにキャンパスを新設するペースで拡張を続けています。2024年には学生数を15万人まで増やしたいと考えています。
ベトナムではこの2年間でどんな変化がありましたか。
デジタル化やテレワークなどが進み、人々の生活や企業活動に様々な変化が起こりました。例えばオンラインの電子決済が従来の12%から24%へと倍増しました。取引額も伸びています。オンラインでできることはオンラインで済ませるという新たな習慣が根付いてきたと感じます。