「デジタル変革を成功させるためには、社員にストレスをかけないDX(デジタルトランスフォーメーション)であることが重要だ」――。ワークマンの土屋哲雄専務は、日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが2021年9月17日に開催した「ITイノベーターズ会議」でこう力強く語った。
土屋専務は「DXで成果上げるワークマン、『しない経営の正体』」と題して講演。2021年3月期の通期決算で10期連続の最高益を更新するなど、急成長を続ける同社の強さの秘訣、デジタル変革の取り組みについて解説した。
社員が自走できる環境をつくる
土屋専務は講演の冒頭、「ワークマンは社員が中心となる環境づくりを非常に重視している。経営は社員を引っ張る立場ではなく、(社員が)自走できる環境をつくるコーチのような存在と位置付けている」と説明。そのために注力しているのが「しない経営」である。
例えば、「目標をぶらさない」。同社の経営目標は「100年の競争優位」という1つだけ。5~10年の間1位や上位になれる市場を選ぶのではなく、100年維持できる市場で勝負するという方針なのである。「経営のぶれない姿勢が、社員の信頼や安心感につながっている」と土屋専務は話す。
ほかにも、価値を生まない仕事はしない、取引先を変えない、残業をしない、ノルマを定めないなど「しない経営」の内容は多岐にわたる。社内行事をしない、会議を極力しない。経営幹部は極力出社しない、幹部は思いつきでアイデアを口にしない、などこと細かく「しない」ことを定めている。
しない経営のなかでも同社が重視しているのが、「社員にストレスをかけない」ということである。例えば、情報システムの導入に期限を設けない。「(システム完成の)期限を設けると社員へのストレスが過剰にかかり、システムの導入が目的化してしまって、デジタル施策の質が下がる」(土屋専務)との考えからだ。
ワークマンが期限を定めずやり続けるテーマとして、在庫の最適化を図るためのサプライチェーンマネジメントシステムの整備がある。土屋専務は、「最適在庫というのは40年間ずっとやってきて、実現できなかったテーマ。それを1、2年でやろうという目標など立てず、不退転の決意で実現できるまでやり続ける」と言い切る。やるべきことについては「あきらめない」。これも、ワークマン流といえる。
A/Bテストに6年かける
実際同社は現在、店舗で使う自動発注システムの第3版を開発中だが、第2版についてはずっと改良を続けており、「6年間ずっとA/Bテストを繰り返していた」(同)という。店舗の半数に新システムを導入し、残りの半数は既存システムをしばらく使い続け、新システムの効果を長い時間かけて測定する。着実に効果が出ることが分かるまで、早急には「動かない」のである。「新システムが完成したら一気に全社導入」という企業が多いなか、ワークマンの取り組みは個性的といえる。
「システムは小さく作って、順次導入、改修することが重要。(システムについては)完成の期限を定めず、社員に自発的に動いてもらい、徹底的に精度を高めていく。これが当社のやり方だ」。土屋専務はこう話す。システム導入を優先するのではなく、あくまでも改革を優先させる。改革のために必要な追加投資は惜しまない。「改革を進めるために、あとになって追加でIT投資が必要となった場合、無条件で許可している」(同)。