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 2019年にリリースされたWi-Fi(無線LAN)の国際規格「IEEE 802.11ax」が「Wi-Fi 6」と呼ばれるようになり、各社からWi-Fi 6のアクセスポイントが出そろいました。そして昨今、早くもWi-Fi 6の次のバージョンである「Wi-Fi 6E」が注目を集めています。Wi-Fi 6Eとは、業界団体である「Wi-Fi Alliance」が20年に開始したWi-Fi 6の拡張版の認証規格です。

リリース年Wi-Fi Allianceによる名称IEEE 802.11による規格最大通信速度利用周波数帯Wi-Fi Allianceによる表現
2020年Wi-Fi 6E(第6世代の拡張版)IEEE 802.11ax9.6Gビット/秒2.4GH帯、5GHz帯、6GHz帯High Efficiency
2019年Wi-Fi 6(第6世代)IEEE 802.11ax9.6Gビット/秒2.4GH帯、5GHz帯
2013年Wi-Fi 5(第5世代)IEEE 802.11ac6.9Gビット/秒5GHz帯Very High Throughput
2014年Wi-Fi 4(第4世代)IEEE 802.11n600Mビット/秒2.4GH帯、5GHz帯High Throuput
2003年正式名称なし(第3世代)IEEE 802.11g54Mビット/秒2.4GHz帯Legacy
1999年正式名称なし(第2世代)IEEE 802.11a54Mビット/秒5GHz帯
IEEE 802.11b11Mビット/秒2.4GHz帯
1997年正式名称なし(第1世代)IEEE 802.112Mビット/秒2.4GHz帯

 Wi-Fi 6Eの最大通信速度は9.6Gビット/秒とWi-Fi 6から変更なく、無線規格としてもWi-Fi 6と同じIEEE 802.11axを利用します。Wi-Fi 6Eの最大の違いは、これまでの2.4GHz帯、5GHz帯に加えて、新たに6GHz帯まで利用できるよう帯域を広げた点です。

 なぜ周波数帯の拡張が必要となったのでしょうか。

 理由は3つあります。まずはWi-Fiのビジネスが全世界で180億ドル(約2兆500億円)を超える巨大な市場となった点です。十分な周波数帯域を確保することで、Wi-Fiをさらに快適に利用できるようになります。5G(第5世代移動通信システム)に対しても、新たな周波数帯が割り当てられており、Wi-Fiも同じように周波数帯を拡張することが不可欠と捉えられてきました。

 Wi-Fiでは長らく周波数帯の拡張がされてこなかったという事情もあります。1996年にIEEE 802.11規格として2.4GHz帯、1999年にIEEE 802.11a規格として5GHz帯を利用できるようになりました。その後、2013年にWi-Gig(IEEE 802.11ad規格)として60GHz帯が追加されましたが、その後は大きな周波数帯追加がない状況でした。

 2点目は、Wi-Fi6において最大9.6Gビット/秒と十分スループットを出せる通信レートとなったにもかかわらず、実際の環境では期待したパフォーマンスを出しにくかったという事情もあります。無線通信では「シャノン限界」といわれる通信容量の理論的な限界があります。ギガビットのスループットを実際に出すためには最低80MHz幅を必要としています。Wi-Fi6などにおいて期待したパフォーマンスが出ない理由として、チャンネルの重複を避けるため40MHz幅や20MHz幅での利用にとどまるケースが多いという点があります。

 3点目は、携帯電話のオフロード先としてWi-Fiがさかんに利用されているという点です。Wi-Fiはモバイル環境におけるデータトラフィックの 80% を運んでいるといわれています。公衆Wi-Fiのほとんどは重複されたチャンネルを利用しており、干渉発生によってパフォーマンスが落ちる実態があります。これらの理由から、より広い周波数帯の拡張が求められ、Wi-Fiを対象とした6GHz帯の周波数開放について、各国で検討が進んでいます。

チャーター便から混載便へ、高効率を目指したIEEE 802.11ax

 Wi-Fi 6Eの詳細に触れる前に、まずはベースとなるIEEE 802.11axの規格について解説します。

 Wi-Fiのベースとなる無線LAN規格は、米国の学会である「IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers) 」の標準化組織で進んでいます。1999年に策定されたIEEE 802.11a/b以降、急速に高速化が進み、2003年に最大54Mビット/秒のIEEE 802.11g、2009年に最大600Mビット/秒のIEEE 802.11n、2013年に最大6.9Gビット/秒のIEEE 802.11ac、そして2019年に最大9.6Gビット/秒のIEEE 802.11axがリリースされました。

 IEEE 802.11規格を基に、Wi-Fi Allianceによる相互接続試験の認証をパスした機器に「Wi-Fi」という名称が付きます。Wi-Fi AllianceではIEEE 802.11a/b/g規格を「Legacy」、IEEE 802.11n規格を「High Throughput」、IEEE 802.11ac規格を「Very High Throughput」、IEEE 802.11ax規格を「High Efficiency(高効率)」と表現しています。

 この呼称の通り、IEEE 802.11ax規格は、高速化を目的としてきた従来規格に対し、複数デバイスに対する同時通信の効率化など、高効率を目的としている点が特徴です。IEEE 802.11axの特徴を貨物トラックに例えて説明しましょう。

IEEE 802.11axが高効率な理由
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IEEE 802.11axが高効率な理由
トラックの混載便(OFDMA)とチャーター便(OFDM)の違いに例えられる。IEEE 802.11axでは混載便に相当するOFDMAを無線LANとして初めて採用した(作成:日本ヒューレット・パッカード)

 できるだけ多くの荷物を運ぶには、まずトラック自体が大きいほうが効率的です。無線LAN規格でトラックの大きさに相当するのが、複数の帯域をまとめて通信できる「チャネルボンディング」です。IEEE 802.11ax規格では、前規格のIEEE 802.11ac規格と同様の20MHz幅/40MHz幅/80MHz幅/160MHz幅という帯域幅を選べます。帯域が倍になれば、運べる荷物も2倍になります。