前回は、Wi-Fi 6Eのメリットを知るために、ベースとなっているWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)の技術を説明しました。今回は、Wi-Fi 6Eの最大の特徴である、新たに追加される6GHz帯のメリットについて解説します。日本における周波数拡張は現在、検討中の段階であるため、既に認可がされた米国の例を中心に紹介します。
2.4GHz帯、5GHz帯だけではチャンネル不足
Wi-Fi 6Eでは、新たに6GHz帯も対象とすることで、最大で1.2GHz幅という広大な周波数幅を利用できるようになります。例えば米国で認可されたWi-Fi 6Eが対象とするのは、5925MHz~7125MHzです。20MHz幅の利用で59チャンネル、40MHz幅で29チャンネル、80MHz幅で14チャンネル、160MHz幅でも7チャンネルを同時に割り当てできます。
これまで2.4GHz帯では、干渉を避けるために重複しないチャンネルを選択する場合、最大でも1、6、11chの3チャンネルしか利用できませんでした。
5GHz帯ではW52の4チャンネル、W53の4チャンネル、W56の11チャンネルを合わせて19チャンネルを利用可能になりました。19年にW56の144ch が利用可能になりましたので、合計20チャンネルです。
さらにIEEE 802.11ac以降で利用可能になった80MHz幅、160MHz幅を使うチャンネルボンディングを適用する場合、80MHz幅で5チャンネル、160MHz幅で2チャンネルしか利用できません。ギガビットクラスのスループットを出したい場合、最低でも80MHz幅のチャンネルボンディングが必要になります。2.4GHz帯、5GHz帯だけでは、周波数帯が到底足りない状況でした。6GHz帯の追加は、こうした課題に応えるものです。
アクセスポイントは目的や最大出力で3クラスに分類
Wi-Fi 6Eでは、利用目的や最大出力によって、VLP(Very Low Power)/LPI(Low Power Indoor)/SP(Standard Power)という3種類のアクセスポイントを設けている点も特徴です。
VLP(Very Low Power)アクセスポイント | LPI(Low Power Indoor)アクセスポイント | SP(Standard Power)アクセスポイント | |
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概要 | モバイルルーターや移動体内(車両など)など | 屋内利用限定 | 長距離、屋外利用 |
利用可能周波数帯(※米国) | 5925~6425MHz(UNII-5)、 または6525~6875MHz(UNII-7 )(検討中) | 5925MHz – 7125MHz | 5925~6425MHz(UNII-5)、 または6525~6875MHz(UNII-7 ) |
最大出力 | 14dBm(検討中) | 30dBm | 36dBm |
その他、制限事項 | APは内蔵アンテナ限定、最大の占有周波数帯域幅は320MHz | 新たな周波数共用の仕組み「AFC(Automated Frequency Coordination)」の利用が必須 |
最も出力を抑えたVLPアクセスポイントは、モバイルルーターや車両などの移動体内での利用を想定しています。米国においてまだ検討中の段階ですが、3つのクラスの中で最も抑えた出力になる見込みです。
続くLPIアクセスポイントは、最大出力は30dBmとVLPと比べて引き上げたものの、屋内利用に限定されるクラスです。家庭やオフィスに設置するWi-Fiルーターなどを想定しています。アクセスポイントのアンテナは内蔵タイプ限定など、いくつか制限事項もあります。
最後のSPアクセスポイントは、最も出力を引き上げており、長距離伝送のほか屋外利用を可能にしています。ただし共用する他の無線システムへの影響を回避するために、「AFC(Automated Frequency Coordination)」と呼ばれる新たな干渉回避の仕組みが義務付けられています。
DFSに代わる周波数共用手法「AFC」
AFCは、これまで5GHz帯を使うWi-Fiにおいて適用されてきた周波数共用の仕組み「DFS(Dynamic Frequency Selection)」に代わる新たな共用手法です。
Wi-Fi 6Eが新たに利用する6GHz帯は、固定無線や衛星通信なども利用しています。AFCではこれらの無線システムとの干渉を避けるために、固定無線や衛星通信などが利用している周波数帯を収集したデータベースを参照します。Wi-Fi 6Eのアクセスポイントは既に利用している周波数チャンネルを避けてチャンネルを選択するという仕組みです。
これまでのDFSは、5GHz帯を利用する他の無線システムである航空や気象用途のレーダー波を、アクセスポイントが受信した場合、アクセスポイント側で周波数チャンネルを変更する仕組みでした。レーダー波を受信するタイミングはさまざまであり、そのたびにアクセスポイントが停波し、通信断が起きるという課題がありました。AFCでは、あらかじめ他の無線システムが利用する周波数チャンネルを参照するため、DFSのような急なチャンネル変更や停波は行われなくなります。